第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本神経理学療法学会 一般演題口述
(神経)13

2016年5月28日(土) 17:10 〜 18:10 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:阿部浩明(広南病院 リハビリテーション科)

[O-NV-13-3] 能動的注意と受動的注意から観た半側空間無視症状の定量的把握

―2つの注意プロセスから病態を捉える新たな評価方法の考案―

高村優作1,3, 大松聡子1,3, 今西麻帆3, 田中幸平3, 万治淳史3, 生野公貴3, 加辺憲人3, 富永孝紀3, 阿部浩明3, 森岡周1, 河島則天2 (1.畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション研究室, 2.国立障害者リハビリテーションセンター研究所, 3.本研究は,下記連携病院の協力のもと他施設共同研究として実施している。医療法人社団清明会静岡リハビリテーション病院,IMSグループ医療法人三愛会埼玉みさと総合リハビリテーション病院,一般財団法人広南会広南病院,医療法人友紘会西大和リハビリテーション病院,医療法人社団輝生会船橋市立リハビリテーション病院,医療法人穂翔会村田病院)

キーワード:半側空間無視, 受動的注意, 能動的注意

【はじめに,目的】

近年の研究成果の蓄積により,脳卒中後に生じる半側空間無視(Unilateral spatial neglect,以下,USN)の病態が,視覚情報処理プロセスにおける受動的注意の停滞を基盤として生じていることが明らかにされてきた。BIT行動性無視検査(Behavioral inattention test,以下,BIT)は,包括的かつ詳細な無視症状の把握が可能である一方で,能動的注意による課題実施の配分が多く,上記の受動的注意の要素を把握・評価することに困難がある。本研究では,PCディスプレイ上に配置されたオブジェクトを,①能動的(任意順序の選択),②受動的(点滅による反応選択)に選択する課題を作成し,双方の成績の対比的評価から無視症状の特徴を捉えるとともに,受動課題における選択反応時間の空間分布特性から無視症状と注意障害の関連性を捉える新たな評価方法の考案を試みた。


【方法】

発症後180日以内の右半球損傷患者66名を対象とし,BIT通常検査のカットオフ値(131点)を基準にUSN群(n=32),USNのない右半球損傷RHD群(n=34)の2群に分類した。対象者はPCディスプレイ上に配置した縦7×横5行,計35個のオブジェクトに右示指にてタッチし選択する課題を実施した。能動的選択課題として,任意順序によるオブジェクト選択を実施し,非選択数(count of miss-selection:cMS)を能動的注意機能の評価変数として用いた。受動的選択課題として,ランダムな順序で点滅するオブジェクトに対する選択反応時間(RT)を計測し,平均反応時間(RTmean)と左右比(L/Rratio)を,それぞれ全般的注意機能および受動的注意機能の評価変数として用いた。


【結果】

cMSおよびL/RratioはRHD群と比較してUSN群で有意に高値を示した。一方で,両変数間には相関関係は認められず,USN群における両変数の分布特性をみると,①cMSが少ないにも関わらずL/Rratioが大きい症例,②cMSが多いにも関わらずL/Rratioが小さい症例などが特徴的に分布していることが明らかとなった。①に該当する症例は,代償戦略により能動探索が可能であるが,受動課題では無視の残存が明確となるケースと考えられる。また,RHD群にはBIT通常検査のカットオフ値を上回るものの,無視症状が残存している症例が複数含まれているが,これら症例群は,上記①と同様にcMSは他のRHD群と同様に少ない一方で,L/Rratioが大きい傾向を認めた。②に該当する症例ではcMSの増加に加えてRTmeanの遅延を認め,無視症状に加えて全般性注意障害の影響が随伴しているものと考えられた。


【結論】

今回考案した評価方法では,能動的/受動的選択課題の対比的評価から,無視症状の特性把握が可能であり,加えて受動課題で得られる反応時間の空間分布の結果から,全般性注意機能と無視症状の関係性を捉えることが可能性であった。