第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本神経理学療法学会 一般演題口述
(神経)14

Sat. May 28, 2016 6:20 PM - 7:20 PM 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:諸橋勇(いわてリハビリテーションセンター 機能回復療法部)

[O-NV-14-4] 脳卒中患者の歩行自立後の転倒に関係するリスク要因

歩行自立迄に長期間を要した事例群の検討

立丸允啓, 原山永世, 中尾淳, 平野雅也, 友田秀紀, 小泉幸毅 (小倉リハビリテーション病院)

Keywords:脳卒中, 歩行自立後転倒, 自立判定指標

【はじめに,目的】

脳卒中患者では,歩行の自立判定や転倒予防に理学療法士の関与が大いに期待されるが,病棟歩行自立(以下,自立)と判定された後の転倒事例が複数報告されている。我々の予備的研究では,自立後の転倒には認知症や高次脳機能障害よりも自立判定時の障害重症度に関連したリスク因子が影響しており,特に自立迄に52日以上を要した者は「7割がその後に転倒した」という興味深い知見を得た。そこで本研究の目的は,自立迄に長期間を要した事例群に着目し自立判定時の指標を検討することである。

【方法】

対象は,平成23年4月から27年7月に当院回復期リハ病棟を退院した脳卒中患者の内,予備的研究の結果を参考に入院から自立迄に60日以上要した78名(年齢62.7±11.6歳,男性40名,女性38名,入院から自立迄93.6±25.3日)とした。自立後に転倒した転倒群56名(71.8%)と非転倒群22名(28.2%)に分類し,診療録よりリスク因子10項目(筋緊張,下肢麻痺,感覚障害,非麻痺側下肢筋力,立位バランス,移乗能力,歩行速度,歩行量,歩行補助具,転倒歴)を調査した。尚,リスク因子は自立直後から2週以内の評価を採用した。また立位バランスは鷹野らによるバランス能力評価6段階に準じ,転倒歴は入院から自立迄の転倒の有無で評価した。解析方法は,群間の比較にはWilcoxon検定・χ2検定を使用し,さらにステップワイズ法による変数選択を行った。また有意差を認めた項目は,オッズ比(以下,OR)と95%信頼区間(以下,CI)を算出した。統計処理はJMPver.9を使用し,有意水準は5%とした。

【結果】

群間比較では,立位バランスと転倒歴の2項目に有意差を認めた。転倒群は,立位バランス4以下のバランス不良者が46名・82.1%(OR:3.18,CI:1.07~9.48),転倒歴有が32名・57.1%(OR:6,CI:1.8~20.04)と非転倒群に比べて多かった。ステップワイズ法の結果,リスク因子10項目のうち立位バランス(OR:5.1,CI:1.21~23.88)のみが選択された。

【結論】

自立後の転倒には,立位バランスと転倒歴が関係しており,多変量間での分析では立位バランスが強く影響していた。前田らは,入院時のバランス能力が脳卒中患者の転倒と関係していることを報告しており,時期は異なるがバランス能力がリスク要因となり得ることを支持する結果となった。一方で他のリスク因子が抽出されなかった理由は,今回の対象者は入院から自立迄に約3ヶ月もの期間を要した障害中等度~重度者に限定され,障害の程度にばらつきが少なかったことが関係したと考えられた。すなわち自立判定時に「2ヶ月以上経過」かつ「立位バランス4以下(正しい立位姿勢を維持し,直ちに立ち直ることが困難)」の者は,自立後の転倒リスクが高い可能性が示唆された。今回使用した立位バランス評価は6段階であり,今後,より詳細なバランス評価を用いた前向き調査でも検証を行いたい。