第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本神経理学療法学会 一般演題口述
(神経)16

2016年5月29日(日) 11:10 〜 12:10 第7会場 (札幌コンベンションセンター 2階 204)

座長:松田雅弘(植草学園大学 保健医療学部)

[O-NV-16-1] 最大速度歩行練習を取り入れた被殻出血例~歩行速度と痙縮の関係に着目して~

越中宏明1, 田村哲也1, 吉尾雅春1, 藤本康浩2 (1.千里リハビリテーション病院, 2.川村義肢株式会社)

キーワード:歩行速度, 痙縮, 被殻出血

【はじめに,目的】今回左被殻出血により運動麻痺,痙縮を呈した症例に対して,最大歩行速度での歩行練習を取り入れた。また快適速度歩行,最大速度歩行中の筋活動,足関節角度を測定し,本症例を通じて歩行速度の増加が痙縮に及ぼす影響について検討する事を目的とした。

【方法】症例は左被殻出血の40代男性。身体機能は,Brunnstrom Stage上肢IV手指IV下肢V,SIASのhip-flexion:4・knee-extension:3・foot-pat:3,Modified Ashworth Scale(MAS):3,膝蓋腱反射(PTR):中等度亢進であり,足関節他動運動時に足クローヌスを認めた。上肢は静止立位では緊張の亢進はみられないものの,歩行時は肘の屈曲を伴う連合反応がみられた。治療は中枢部の固定性が得られるまでは長下肢装具を使用し,歩行練習を中心に実施した。適宜短下肢装具歩行の評価を行い,短下肢装具およびT字杖での歩行が見守りで可能になった時点で以下の計測を行った(41病日)。両端2m予備路を含む10mの快適速度歩行(CW)および最大速度歩行(MW)を実施し,1)歩行速度・歩行率,川村義肢社製Gait Judge System(GJS)による麻痺側の2)立脚期足関節可動範囲角度(足可動範囲),3)荷重応答期底屈モーメント(1stピーク)を計測した。計測にはGait Solution付き短下肢装具(底屈制動・背屈遊動,油圧3)を使用し,歩行状態が安定した5m以降の3歩行周期分の計測値を分析に用いた。またGJS上の表面筋電図により歩行中の麻痺側・非麻痺側の前脛骨筋と下腿三頭筋の歩行時筋活動を可視化した。計測後1週間最大歩行速度による積極的な歩行練習を継続し,1週後に痙縮の評価と10m歩行速度を再度計測した。

【結果】2条件における歩行速度・歩行率はCW:0.56m/s・1.2歩/s,MW:0.90m/s・1.6歩/sであった。足可動範囲はCW:2.5±0.96°,MW:5.2±1.62°であり,1stピークはCW:10.3±0.47Nm,MW:11. 7±0.6Nmであった。表面筋電図上では麻痺側・非麻痺側の前脛骨筋と下腿三頭筋に周期性のある筋活動を認めた。目視による確認においてCW・MW間で明らかな筋活動の差はなかった。計測直後のMAS,PTR,足クローヌスも変化はみられなかった。1週後の評価でも,MAS,PTR,足クローヌスに変化はなく,歩行速度・歩行率はCW:0.68 m/s・1.3歩/s,MW:1.03m/s・1.8歩/sであった。

【結論】CWと比較してMWでは計測時,1週後ともに約1.5倍の速度上昇を認めた。また痙縮が影響すると考えられる足可動範囲の縮小や筋活動の変化はなく,周期性も担保されたままであった。そのため今回の症例については,痙縮の歩行速度の増加に伴う影響は少なかったものと考えられる。痙縮に対する個別的対応として緩徐な動作課題を選択することは多いが,その対応は適当でない可能性がある。むしろ,歩行速度は適応的歩行能力に不可欠な要素であり,課題指向型アプローチの観点からもMWは積極的に推奨すべき治療手段・練習課題である事が示唆された。