[O-NV-16-2] 肩甲帯の安定が脳卒中片麻痺患者の歩行エネルギー効率に及ぼす影響
酸素消費量と加速度指標による検討
Keywords:肩甲帯, 酸素消費量, 加速度
【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺(以下CVA)患者では動作効率が悪化してエネルギー効率が低下すると言われている。前田らは,短下肢装具の使用が歩行効率を改善しエネルギー効率を向上させると報告している(2006)。一方我々は,上肢懸垂用肩関節装具は麻痺側立脚中期以降における底屈モーメントと最大歩行速度を増加させることを報告した(2013)。しかし,肩甲帯の変化がエネルギー効率に及ぼす影響は明らかではない。本研究の目的は,肩甲帯の安定がCVA患者の歩行におけるエネルギー効率に及ぼす影響を明らかにすることである。
【方法】
対象は,6分間以上の連続歩行が近位監視~屋内自立(FIM5点以上)で可能,かつ上肢Bruunstrom Recovery Stage V以下で肩甲帯のマルアライメントを呈したCVA患者10名(男性8名,女性2名。年齢60.5±10.5歳,麻痺側:右4名,左6名)とした。
方法は,6分間歩行検査(以下6MWT)をottobock社製上肢懸垂用肩関節装具(以下ON)装着および非装着条件でランダム順に行った。実験プロトコルは,5分間の安静座位の後,ON着脱を経て6MWTを実施し,次に10分程度の休息の後にON着脱を経て6MWTを実施し,安静座位を経て終了とした。
測定項目は,歩行指標として6MWT距離(m),歩行速度(m/min),呼吸指標としてアニマ社製呼気ガス分析器AT1100を用いて酸素消費量(VO2),1mあたりのVO2(VO2/m),体重1kgあたりのVO2m(VO2/w/m)を測定した。また,マイクロストーン社製モーションレコーダーMVP-RF8を肩峰および第3腰椎棘突起上に装着し,歩行中の加速度を測定した。統計解析は,IBM SPSS statistics22を用いてON装着の有無による各指標の変化の比較についてWilcoxon符号順位検定を使用し,危険水準を5%未満とした。
【結果】
歩行指標は,0.68±2.5m/min速度が上昇し4.09±14.7m距離が延長したが,いずれも有意差を認めなかった。
呼吸指標は,6WMT中のVO2はON装着によって2.95%減少する傾向にあり,VO2/mは4.7%有意に減少し,VO2/w/mでは4.54%有意に減少した。歩行時平均VO2から歩行直前1分間平均のVO2を引いた変化量を算出したところ12.3%有意に減少した。
加速度指標は,肩峰加速度でY軸の標準偏差と二乗平均平方根において有意に低値を示し,歩行時の上下動の安定化と動揺の減少を示した。一方,第3腰椎加速度はX軸(左右成分)の標準偏差で低値を示し,歩行時の左右の動揺の減少を示した。
【結論】
ONは歩行時に肩甲骨を特に上下方向に安定化させる効果があり,重心の左右方向への動揺も軽減する効果が確認された。この肩峰と重心の安定化は身体質量比重を変化させ,歩行時における重心移動を推進方向に対して効率化させたと考えられる。その結果エネルギー消費要求が低下し,生理的指標である酸素消費が効率化したものと推測された。以上,肩甲帯の安定化が歩行のエネルギー効率を向上させる可能性があり,歩行能力向上には肩甲帯にも留意する必要があることが示唆された。
脳卒中片麻痺(以下CVA)患者では動作効率が悪化してエネルギー効率が低下すると言われている。前田らは,短下肢装具の使用が歩行効率を改善しエネルギー効率を向上させると報告している(2006)。一方我々は,上肢懸垂用肩関節装具は麻痺側立脚中期以降における底屈モーメントと最大歩行速度を増加させることを報告した(2013)。しかし,肩甲帯の変化がエネルギー効率に及ぼす影響は明らかではない。本研究の目的は,肩甲帯の安定がCVA患者の歩行におけるエネルギー効率に及ぼす影響を明らかにすることである。
【方法】
対象は,6分間以上の連続歩行が近位監視~屋内自立(FIM5点以上)で可能,かつ上肢Bruunstrom Recovery Stage V以下で肩甲帯のマルアライメントを呈したCVA患者10名(男性8名,女性2名。年齢60.5±10.5歳,麻痺側:右4名,左6名)とした。
方法は,6分間歩行検査(以下6MWT)をottobock社製上肢懸垂用肩関節装具(以下ON)装着および非装着条件でランダム順に行った。実験プロトコルは,5分間の安静座位の後,ON着脱を経て6MWTを実施し,次に10分程度の休息の後にON着脱を経て6MWTを実施し,安静座位を経て終了とした。
測定項目は,歩行指標として6MWT距離(m),歩行速度(m/min),呼吸指標としてアニマ社製呼気ガス分析器AT1100を用いて酸素消費量(VO2),1mあたりのVO2(VO2/m),体重1kgあたりのVO2m(VO2/w/m)を測定した。また,マイクロストーン社製モーションレコーダーMVP-RF8を肩峰および第3腰椎棘突起上に装着し,歩行中の加速度を測定した。統計解析は,IBM SPSS statistics22を用いてON装着の有無による各指標の変化の比較についてWilcoxon符号順位検定を使用し,危険水準を5%未満とした。
【結果】
歩行指標は,0.68±2.5m/min速度が上昇し4.09±14.7m距離が延長したが,いずれも有意差を認めなかった。
呼吸指標は,6WMT中のVO2はON装着によって2.95%減少する傾向にあり,VO2/mは4.7%有意に減少し,VO2/w/mでは4.54%有意に減少した。歩行時平均VO2から歩行直前1分間平均のVO2を引いた変化量を算出したところ12.3%有意に減少した。
加速度指標は,肩峰加速度でY軸の標準偏差と二乗平均平方根において有意に低値を示し,歩行時の上下動の安定化と動揺の減少を示した。一方,第3腰椎加速度はX軸(左右成分)の標準偏差で低値を示し,歩行時の左右の動揺の減少を示した。
【結論】
ONは歩行時に肩甲骨を特に上下方向に安定化させる効果があり,重心の左右方向への動揺も軽減する効果が確認された。この肩峰と重心の安定化は身体質量比重を変化させ,歩行時における重心移動を推進方向に対して効率化させたと考えられる。その結果エネルギー消費要求が低下し,生理的指標である酸素消費が効率化したものと推測された。以上,肩甲帯の安定化が歩行のエネルギー効率を向上させる可能性があり,歩行能力向上には肩甲帯にも留意する必要があることが示唆された。