第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本呼吸理学療法学会 一般演題口述
(呼吸)01

2016年5月28日(土) 16:00 〜 17:00 第5会場 (札幌コンベンションセンター 2階 201+202)

座長:高橋仁美(市立秋田総合病院 リハビリテーション科)

[O-RS-01-2] 安定期COPD患者における下肢筋力値と急性増悪入院との関連

~a prospective study~

松嶋真哉1, 横山仁志2, 武市梨絵2, 渡邉陽介2, 中田秀一3, 笠原酉介1, 大宮一人1, 駒瀬裕子4 (1.聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院リハビリテーション部, 2.聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部, 3.川崎市立多摩病院リハビリテーション科, 4.聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院呼吸器内科)

キーワード:慢性閉塞性肺疾患, 急性増悪, 下肢筋力

【はじめに,目的】

慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)の急性増悪入院は死亡率や治療コストの増加と関連する病態であり,その予防はCOPD患者の重要な課題である。現在COPDの急性増悪入院と関連する身体能力指標として6分間歩行試験やIncremental Shuttle Walking Testなどの歩行試験が報告され,急性増悪入院のリスク把握に使用されている。一方COPD患者の特徴の一つに筋力低下が挙げられ,呼吸困難の程度や歩行能力,身体活動量と関連するとされているが,筋力低下が急性増悪入院と関連するかは明らかでない。そこで我々は,下肢筋力値がCOPD患者の急性増悪入院に関連する因子となるかを検討した。


【方法】

2013年1月から2014年9月までに当院呼吸器内科を外来受診したCOPD患者129例を対象に,1年間における急性増悪入院の有無を追跡調査した。ベースラインにおける測定項目は,年齢,性別,Body Mass Index(BMI),%理想体重,Brinkman Index(BI),C反応性蛋白(C-reactive protein:CRP),在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy:HOT)の有無,過去1年間の急性増悪入院の有無,%肺活量,%1秒量,1秒率,Modified Medical Research Council Dyspnea Scale,COPD Assessment Testおよび下肢筋力値とした。下肢筋力値はアニマ社製徒手筋力測定器を用いて測定し,その左右平均値と体重との割合(% Knee Extension Strength:%KES)を算出した。統計解析は,1年間における急性増悪入院の有無を従属変数とした多変量ロジスティック回帰分析を用いて検討した。独立変数は,単変量解析においてP<0.2であった項目から多重共線性を考慮し選定した。さらに,Receiver Operating Characteristics(ROC)曲線を用いて,急性増悪入院の有無を判別する%KESのカットオフ値を算出した。なお,危険率5%未満を有意差判定の基準とした。


【結果】

対象から28例が追跡不能となり解析から除外した。追跡可能であった101例(平均年齢75.4±8.5歳,男性87例,COPDの病期分類;I期58例,II期24例,III期13例,IV期6例)のうち,26例がCOPDの急性増悪で入院となった。多変量ロジスティック回帰分析の結果から,BMI(odds ratio[OR];0.78,95% confidence interval[CI];0.63-0.96,P=0.021),CRP(OR;5.43,95%CI;1.34-22.05,P=0.018),HOTの有無(OR;6.49,95%CI;1.28-32.37,P=0.024),%KES(OR;0.42,95%CI;0.25-0.72,P=0.002)が1年間における急性増悪入院の有無に関連する有意な因子として抽出された。ROC曲線より,1年間における急性増悪入院に対する%KESのカットオフ値は,47.86%(感度77%,特異度61%,曲線下面積0.72,P=0.01)であった。


【結論】

安定期のCOPD患者において下肢筋力値は,急性増悪入院と関連する因子であることが明らかとなった。先に報告されている歩行試験は,スペースの問題や歩行が自立しない場合測定できないといった制限を有する。そのため,歩行試験が実施困難場合などは,下肢筋力値が急性増悪入院のリスクを把握する身体能力指標の一つとなることが示唆された。