第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本呼吸理学療法学会 一般演題口述
(呼吸)03

2016年5月28日(土) 18:20 〜 19:20 第5会場 (札幌コンベンションセンター 2階 201+202)

座長:神津玲(長崎大学病院 リハビリテーション部)

[O-RS-03-2] 慢性閉塞性肺疾患と健常者における横隔膜筋厚の比較

―超音波画像を用いた検討―

大倉和貴1, 岩倉正浩1,3, 川越厚良1, 菅原慶勇1, 髙橋仁美1, 柏倉剛1, 本間光信2, 佐竹將宏3, 塩谷隆信3 (1.市立秋田総合病院リハビリテーション科, 2.市立秋田総合病院呼吸器内科, 3.秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻)

キーワード:慢性閉塞性肺疾患, 横隔膜, 超音波画像解析

【はじめに】

近年,横隔膜機能の評価で非侵襲的なものとして,超音波画像が用いられている。しかし,慢性閉塞性肺疾患(COPD)において超音波画像を用いて横隔膜筋厚を測定し,健常者と比較した調査は少ない。本研究は,超音波画像を用いて測定される横隔膜筋厚を健常な若年者,高齢者およびCOPD患者で比較し,加齢と病態による横隔膜筋厚の変化を明らかにすることを目的とした。


【方法】

対象は,呼吸機能障害のない男性大学生16名(以下,健常若年群,年齢:22±1歳,BMI:22.0±1.8kg/m2,%FVC:111.9±15.7%,%FEV1:100.6±13.0%),呼吸機能障害のない男性高齢者10名(以下,健常高齢群,年齢:71±5歳,BMI:22.3±1.1kg/m2,%FVC:105.3+19.2%,%FEV1:92.6±24.5%),安定期の男性COPD患者28名(以下,COPD群,年齢:73±7歳,BMI:22.3±2.7kg/m2,%FVC:96.6±18.2%,%FEV1:54.2±17.0%)である。

横隔膜筋厚(Tdi)は超音波画像診断装置Noblus(日立アロカメディカル社製)を用いて測定した。測定肢位は仰臥位とし,プローブを右側中腋窩線から前腋窩線間の第8または9肋間(Zone of Apposition)の体表に置き,同部位においてTdiをBモードで描出した。Tdiが最も小さくなる残気量位の筋厚(TdiRV)からTdiが最も大きくなる全肺気量位の筋厚(TdiTLC)を測定し,TdiTLCからTdiRVの変化量を求め,TdiRVを基準とした横隔膜筋厚変化率(ΔTdi%)を算出した。

統計解析は,対象の基本情報,各TdiおよびΔTdi%の差を比較するために一元配置分散分析を行い,各群間の差を明確にするためにTukey-kramer法の多重比較検定を行った。


【結果】

基本情報は,%FVCでは健常若年群(p=0.021),%FEV1では健常若年群(p<0.001)と健常高齢群(p<0.001)に比較してCOPD群でそれぞれ有意に低値を示した。

横隔膜筋厚は,TdiTLCでは健常若年群(p=0.004)と健常高齢群(p=0.001),ΔTdi%では健常若年群(p<0.001)と健常高齢群(p=0.002)に比較してCOPD群でそれぞれ有意に低値を示した。各群のTdiRVには有意な差はみられなかった。

また,健常若年群と健常高齢群にはいずれの項目でも有意な差はみられなかった。


【結論】

本研究の結果,TdiTLCおよびΔTdi%に関して健常若年群と健常高齢群で有意な差はみられず,COPD群でのみ有意に低下していた。従って,超音波画像で測定された横隔膜筋厚は,加齢による影響は少ないという先行研究(Boonら,2012)を支持し,さらにCOPDの病態による横隔膜機能不全を反映する可能性が示唆された。今後は,COPDの病態との関連について検証することが課題だと考える。


【理学療法研究としての意義】

超音波画像診断は非侵襲的で身体的負担も少なく,横隔膜機能評価を行う上で有用な手段であると考える。また,横隔膜筋厚や筋厚変化率の低下には加齢よりもCOPDの病態がより関与していることが示唆されたことからCOPDの横隔膜機能評価として有用な可能性がある。