第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本呼吸理学療法学会 一般演題口述
(呼吸)04

Sun. May 29, 2016 10:00 AM - 11:00 AM 第5会場 (札幌コンベンションセンター 2階 201+202)

座長:関川清一(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)

[O-RS-04-5] 中大脳動脈領域の血管病変における横隔膜の動きに関する研究

大宅良輔1, 中元洋子1, 明日徹1, 舌間秀雄1, 白石純一郎2, 佐伯覚3 (1.産業医科大学病院リハビリテーション部, 2.産業医科大学若松病院リハビリテーション科, 3.産業医科大学リハビリテーション医学講座)

Keywords:脳卒中, 横隔膜, 体幹筋力

【はじめに,目的】

中大脳動脈領域の血管病変により反対側の片麻痺が出現するが,横隔膜の動きに影響するか否かについての報告は少ない。横隔膜は体幹の胸腔内圧メカニズムに関与しており,腹筋群とともに呼吸機能に大きく影響を及ぼす。本研究の目的は,中大脳動脈領域の血管病変により麻痺側,非麻痺側の横隔膜の動きに差が生じるか,また,体幹筋力,呼吸機能と横隔膜の動きとの関連性を明らかにすることである。


【方法】

呼吸器疾患の既往のない一側性の中大脳動脈領域の血管病変を生じた脳卒中初発患者12名(男性6名,女性6名,年齢68.2±9.1歳)を対象とした。発症様式は脳出血5名,脳梗塞7名。麻痺は左片麻痺7名,右片麻痺5名。麻痺の重症度は軽度~中等度8名,重度4名であった。重症度についてはBr.stageI~IIIを重度とし,IV~VIを軽度~中等度とした。多目的X線画像診断装置(SHIMADZU製Sonialvision SafireII)を使用し,発症後30日以内に透視下にて安静時と努力呼吸時の横隔膜ドームとの移動距離の差を計測した。体幹筋力はHand Held Dynamometerを使用し,座位にて体幹の最大屈曲筋力を測定した。呼吸機能検査にはSP-370COPD肺Perプラス(フクダ電子)を使用し,呼吸機能(肺活量,1回換気量,最大咳流量)を測定した。


【結果】

横隔膜移動距離は,安静呼吸時では麻痺側10.55±3.26 mm,非麻痺側10.08±2.85 mm,努力呼吸時では麻痺側30.61±13.71 mm,非麻痺側28.3±11.36 mmであった。また麻痺重症度別での麻痺側と非麻痺側の比較において,安静呼吸時,努力呼吸時ともに横隔膜移動距離に有意差を認めなかった。横隔膜の動きと呼吸機能との関係は有意な相関を認めなかったが,体幹筋力と肺活量において有意な正の相関を認め(r=0.652,p=0.041),また努力呼吸時における横隔膜移動距離と体幹筋力は有意な正の相関を認めた(麻痺側:r=0.759,p=0.004,非麻痺側:r=0.693,p=0.013)。




【結論】

先行研究では,脳卒中患者における横隔膜の運動障害は一側に出現するとの報告があるが,今回の結果では,横隔膜移動距離は重症度に関わらず,麻痺側・非麻痺側間の比較で有意差は認められなかった。ただし両側性に動きが低下している可能性は十分考えられるため,今後対照群との比較が必要である。また,体幹筋力と肺活量において正の相関がみられたことから,中大脳動脈領域の脳血管障害患者では,吸気時に横隔膜の働きと同時に体幹の安定性を高める腹筋群が作用する。努力呼気時には腹筋の収縮で腹部内臓を圧迫し,横隔膜が弛緩することで十分な呼気を排出するといった横隔膜と腹筋の関係性が高いと示唆される。脳卒中片麻痺患者において,肺活量向上のために体幹筋力の強化トレーニングを行うことは重要といえるかもしれない。