第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本呼吸理学療法学会 一般演題口述
(呼吸)05

Sun. May 29, 2016 11:10 AM - 12:10 PM 第5会場 (札幌コンベンションセンター 2階 201+202)

座長:山下康次(市立函館病院 中央医療技術部リハビリ技術科)

[O-RS-05-3] 肺移植患者における手術前後の運動耐容能に関連する因子の検討

大島洋平1, 長谷川聡2, 宮坂淳介1, 吉岡佑二1, 松村葵1, 中谷未来1, 玉木彰3, 佐藤晋1, 松田秀一1 (1.京都大学医学部附属病院, 2.京都大学大学院医学研究科, 3.兵庫医療大学大学院医療科学研究科)

Keywords:肺移植, 運動耐容能, 多変量解析

【はじめに,目的】欧米諸国の報告によると,肺移植後は肺機能が良好であっても骨格筋機能障害が長期的に遷延していることが多く,骨格筋機能の低下が運動耐容能を制限する主要因になっていると考えられている。しかしながら,本邦における肺移植は移植適応基準や術式等で欧米諸国とは相違があることから,運動耐容能を制限している因子が異なっている可能性があり,現行のリハビリテーション介入は科学的根拠に乏しい状況にある。本研究の目的は,本邦における肺移植患者の運動耐容能を規定している要因を検証することである。


【方法】本研究は京都大学医学部附属病院における前向き観察研究からデータを抽出して横断的に解析を行った。対象は2008年6月から2014年10月までに肺移植術を受けた患者93例のうち,16歳以上で,かつ術前,術後3ヶ月・1年でのデータ(胸部CT画像,肺機能,膝伸展筋力,6分間歩行距離)に欠損がない42例(43±13歳,男性22例)とした。原疾患は間質性肺炎と閉塞性細気管支炎にて過半数を占めた。術式は生体肺移植22例(片肺移植1例),脳死肺移植20例(片肺移植12例)であった。調査項目は身長,体重,肺機能(%FEV1),膝伸展筋力(QF),脊柱起立筋の断面積および筋内脂肪変性の程度,6分間歩行距離(6MWD)とした。なお,脊柱起立筋の断面積(ESMCSA)は胸部CT画像を用いて第12胸椎椎体下縁レベルで評価し,筋内脂肪変性の程度は平均CT値(ESMCT)にて評価した。統計解析にはSPSS ver.18を使用し,術前,術後3ヶ月・1年の3時点において6MWDを従属変数とし,年齢,性別,BMI,%FEV1,QF体重比,ESMCSA体重比,ESMCTを独立変数としてステップワイズ法による重回帰分析を行った。なお,有意水準は5%とした。


【結果】術前の6MWDは275±131mであり,重回帰分析の結果から,6MWDに関連する独立因子は,年齢(β=-.32),%FEV1(β=.35),QF体重比(β=.46)が抽出された(調整済みR2=.34)。術後3ヶ月の6MWDは483±94mであり,独立因子は,%FEV1(β=.37),QF体重比(β=.54),ESMCT(β=.27)が抽出された(調整済みR2=.54)。術後1年の6MWDは530±93mであり,独立因子は,性別(β=.26),%FEV1(β=.60),QF体重比(β=.31),ESMCT(β=.39)が抽出された(調整済みR2=.54)。


【結論】本邦における肺移植患者は最重症例が多いことや,生体間においてはunder sized graftである場合が多いことが,術後の換気能力の不足をもたらし,運動耐容能に影響を及ぼしていると予想された。そのため,本邦の肺移植患者に対しては,骨格筋機能だけではなく換気能力の改善にも着目したプログラムを構築し,術前から継続的に介入することが重要であると考えられた。また,術後は脊柱起立筋のCT値が運動耐容能との関連を認めており,骨格筋の形態的評価は断面積などの量的な指標だけではなく質的な指標も評価対象に加えて検討することの重要性が示唆された。