第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本呼吸理学療法学会 一般演題口述
(呼吸)05

2016年5月29日(日) 11:10 〜 12:10 第5会場 (札幌コンベンションセンター 2階 201+202)

座長:山下康次(市立函館病院 中央医療技術部リハビリ技術科)

[O-RS-05-5] 右上葉切除後残存肺における術後遠隔期の代償性過膨張と術後早期の吸気量改善率について

齊藤哲也1, 楯野英胤1, 大野範夫1, 大橋慎一2, 林祥子2, 鈴木浩介2, 植松秀護2, 神尾義人2, 北見明彦2, 鈴木隆2 (1.昭和大学藤が丘リハビリテーション病院, 2.昭和大学横浜市北部病院)

キーワード:肺葉切除, 呼吸機能, 周術期リハビリテーション

【目的】呼吸器外科周術期における早期離床を含めたリハビリテーションの有用性についての報告は散見する。しかし,術後残存肺の変化に対する周術期理学療法の効果についての報告はない。今回は,CT RAWデータからの3Dレンダリングにより,術後遠隔期の残存肺における代償性過膨張の程度を評価し得た,右上葉切除後の3症例について,術後早期の吸気量改善率との関係を評価した。

【対象】平成27年2月~5月に右上葉切除術を受け,周術期理学療法を施行した症例のうち,術後遠隔期のCT RAWデータを採取できた3例(症例1:80代女性VC2.47 FEV11.71%FEV1125.7 FEV1%67.1,症例2:60代男性VC4.08 FEV12.64%FEV181.7 FEV1%65.8,症例3:50代男性VC5.3 FEV13.42%FEV198.3 FEV1%64.7)を対象とした。

【方法】術後残存肺過膨張の程度は,術前と術後遠隔期に撮影されたCTのRAWデータから構築した3Dモデルより肺容積を算出し,右葉・左葉それぞれ術前比として評価した。3Dレンダリングにはマテリアライズジャパン社製Mimicsを用いた。術後早期の吸気量改善率の程度は,術後1週における吸気量をincentive spirometer(以下IS)にて測定し,術前呼吸機能検査における肺活量に対する比として算出し評価した。

【結果】術前容積vs術後容積は,症例1(右葉:1630169.22mm3 vs 1436060.73mm3 左葉:1624493.22mm3 vs 1955555.14mm3)症例2(右葉:3068347.89mm3 vs 2704660.24 mm3 左葉:2889035.27mm3 vs 3068847.89mm3)症例3(右葉:3022118.59mm3 vs 2834741.72 mm3 左葉:5585202.36mm3 vs 3187348.64mm3)であった。術前比は症例1(右葉88.1%左葉120.4%)症例2(右葉88.1%左葉106.2%)症例3(右葉93.8%左葉124.4%)であった。術後1週の吸気量改善率は,症例1:30.7%,症例2:33.1%,症例3:42.5%であった。

【結語】術後早期の吸気量改善率が30%程度でも,術後遠隔期の右葉肺容積は術前比90%前後まで代償性過膨張を示した。左葉肺容積は術前比100%以上へ代償性過膨張を示した。症例3は術後1週の吸気量改善率が40%を上回り,遠隔期でも90%以上の代償性過膨張を示した。リハビリテーションでは,術後胸帯固定を行わず,早期より胸郭寄与率を上げ,残存肺の膨張を促すアプローチを行っている。簡易的なISをインフォメーションツールとして用い,早期の吸気量増大が胸腔内デッドスペースへの胸水貯留や横隔膜の上昇を抑制し,術後遠隔期の代償性過膨張へ少なからず貢献できるのではないかと考えている。