[O-RS-05-6] 胸腔鏡下肺葉切除術を受けた早期非小細胞肺癌患者における長期予後の予測因子と術前6分間歩行試験の意義
Keywords:胸腔鏡下肺葉切除術, 5年生存率, 6分間歩行試験
【はじめに,目的】
肺切除術を予定している非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer:NSCLC)患者に対する術前の運動負荷試験は,合併症発症や手術関連死亡における予測的な意義を持つが,長期予後に関しては不明な点が多い。本研究の目的は,胸腔鏡下肺葉切除術(thoracoscopic lobectomy:TL)を受けた早期NSCLC患者における術前6分間歩行試験(6MWT)結果と長期予後との関連を調査することである。
【方法】
当院において2005年6月から2012年10月までにTLを受けたNSCLC連続症例を対象とし,全例呼吸リハビリテーションと術前6MWTを行った。カルテより患者因子,術前臨床データ,腫瘍因子,およびフォローアップ期間,死亡日,死因を調査した。統計分析は,5年生存率をKaplan-Meier生存曲線(Logrank法)で評価し,Cox比例ハザード回帰分析で5年生存率の独立因子を同定した。6分間歩行距離(6MWD)のカットオフ値設定には,受信者動作特性試験(ROC)曲線を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
研究期間中の連続症例266例中,病理病期IA,IBの176例が解析対象となった(年齢中央値71歳(21-90歳),女性67例(38.1%))。フォローアップ期間の中央値は60.6ヶ月で,この間のall-cause mortalityは15.9%(28例)であった。ROC曲線から得られた6MWDのカットオフ値は455m(感度:0.61,特異度:0.75)で曲線下面積(AUC)は0.67であった。6MWD≥455m群の5年生存率は92.5%で,6MWD<455m群は78.1%であり,有意な関連性を認めた(unadjusted hazard ratio:0.31,P=0.011)。Cox比例ハザード回帰分析の結果,5年生存率の有意な独立因子は,6MWT中のdesaturation(≥4%),組織型(non-adenocarcinoma),performance status(≥1)であった(hazard ratio:2.64,3.13,3.39,P=0.028,0.004,0.003,respectively)。
【結論】
本研究は,TLのみを対象にして,術前6MWDと長期予後の関連性を検討した初めての研究である。単変量解析の結果,術前6MWDは,早期NSCLC患者の長期アウトカムである5年生存率に有意に関連していた。多変量解析の結果からは,6MWDそのものは独立因子に残らなかったが,6MWTで得られたdesaturationの有無が有意な因子であった。術前の運動負荷試験は,主に耐術能評価を目的に実施され,手法としては心肺運動負荷試験(CPET)による最高酸素消費量が用いられることが多い。6MWTはCPETよりも臨床的汎用性が高く,desaturationの検出にも優れている。従って,TL術前患者のスクリーニングやリスク層別化のために,術前6MWTを実施する意義は高いことが示唆された。また,performance statusと6MWDが長期予後の独立因子であったことから,身体機能の低い患者群に対する術前介入の必要性が改めて確認できた。
肺切除術を予定している非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer:NSCLC)患者に対する術前の運動負荷試験は,合併症発症や手術関連死亡における予測的な意義を持つが,長期予後に関しては不明な点が多い。本研究の目的は,胸腔鏡下肺葉切除術(thoracoscopic lobectomy:TL)を受けた早期NSCLC患者における術前6分間歩行試験(6MWT)結果と長期予後との関連を調査することである。
【方法】
当院において2005年6月から2012年10月までにTLを受けたNSCLC連続症例を対象とし,全例呼吸リハビリテーションと術前6MWTを行った。カルテより患者因子,術前臨床データ,腫瘍因子,およびフォローアップ期間,死亡日,死因を調査した。統計分析は,5年生存率をKaplan-Meier生存曲線(Logrank法)で評価し,Cox比例ハザード回帰分析で5年生存率の独立因子を同定した。6分間歩行距離(6MWD)のカットオフ値設定には,受信者動作特性試験(ROC)曲線を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
研究期間中の連続症例266例中,病理病期IA,IBの176例が解析対象となった(年齢中央値71歳(21-90歳),女性67例(38.1%))。フォローアップ期間の中央値は60.6ヶ月で,この間のall-cause mortalityは15.9%(28例)であった。ROC曲線から得られた6MWDのカットオフ値は455m(感度:0.61,特異度:0.75)で曲線下面積(AUC)は0.67であった。6MWD≥455m群の5年生存率は92.5%で,6MWD<455m群は78.1%であり,有意な関連性を認めた(unadjusted hazard ratio:0.31,P=0.011)。Cox比例ハザード回帰分析の結果,5年生存率の有意な独立因子は,6MWT中のdesaturation(≥4%),組織型(non-adenocarcinoma),performance status(≥1)であった(hazard ratio:2.64,3.13,3.39,P=0.028,0.004,0.003,respectively)。
【結論】
本研究は,TLのみを対象にして,術前6MWDと長期予後の関連性を検討した初めての研究である。単変量解析の結果,術前6MWDは,早期NSCLC患者の長期アウトカムである5年生存率に有意に関連していた。多変量解析の結果からは,6MWDそのものは独立因子に残らなかったが,6MWTで得られたdesaturationの有無が有意な因子であった。術前の運動負荷試験は,主に耐術能評価を目的に実施され,手法としては心肺運動負荷試験(CPET)による最高酸素消費量が用いられることが多い。6MWTはCPETよりも臨床的汎用性が高く,desaturationの検出にも優れている。従って,TL術前患者のスクリーニングやリスク層別化のために,術前6MWTを実施する意義は高いことが示唆された。また,performance statusと6MWDが長期予後の独立因子であったことから,身体機能の低い患者群に対する術前介入の必要性が改めて確認できた。