[O-TK-01-4] 大腿骨近位部骨折患者の術後食事摂取量が入院中のADL改善に与える影響
神戸市内急性期病院による多施設共同研究
Keywords:食事摂取量, 栄養状態, 大腿骨近位部骨折
【はじめに,目的】
本邦における大腿骨近位部骨折患者は高齢化に伴い増加している。先行研究において術後1年の死亡率に急性期病院退院時ADLが影響するとの報告があり,術後のADL獲得は重要である。また,大腿骨近位部骨折患者は最大で約60%が低栄養であると報告されており,入院後の食事摂取量低下や術後異化反応の亢進により栄養状態は更に悪化するとも報告されている。低栄養状態はリハビリテーションによるADL獲得の阻害要因と考えられるが,低栄養状態に至る原因の一つである食事摂取量がADLに与える影響は明らかではない。食事摂取量は可変因子であり,ADLに与える影響を明確にする事はその改善の為に重要である。本研究の目的は術後食事摂取量が入院中のADL改善に与える影響を多施設で検討する事である。
【方法】
研究デザインは前向き観察研究である。対象は急性期病院3施設に入院した65歳以上の転倒による大腿骨近位部骨折患者のうち,受傷前からの嚥下障害例,歩行不可例等を除外した201名とした。ADLの獲得はFIM運動項目を術後翌日と退院時に評価し,退院時-術後翌日の値をFIM利得として算出した。食事摂取量(Energy Intake:以下EI)はエネルギー充足率として以下の手順で2群に分類した。まず,術後翌日から7日目までのEIの平均値を看護記録より算出した。次にHarris-Benedict式を用いて基礎エネルギー必要量(Basal Energy Expenditure:以下BEE)を算出し,BEEにストレス係数を1.1として乗じた後(BEE×1.1),EIをBEE×1.1で除した値(EI/BEE×1.1)をエネルギー充足率とした。その後,体重減少の観点からEI/BEE×1.1<1を非充足群,EI/BEE×1.1≥1を充足群として分類した。統計解析は,FIM利得を目的変数,エネルギー充足率を説明変数とし,年齢,性別,BMI,握力,下腿周径,上腕周径,MNA-SF,アルブミン,受傷前歩行能力,認知機能,併存疾患,術後合併症等のうち,エネルギー充足率と関連のあった変数を交絡変数とした重回帰分析を行った。
【結果】
非充足群106名(52.8%,平均年齢83.5±7.27歳),充足群95名(47.2%,平均年齢83.3±7.12歳)であった。FIM運動項目利得は非充足群で23.5±16.6,充足群31.5±19.5であった(P<0.05)。交絡変数として受傷前歩行能力,認知機能,MNA-SFにおいて2群間で有意差を認めた。重回帰分析の結果,FIM運動項目利得と関連を認めた変数はエネルギー充足率(β=0.13,P<0.05),認知機能(β=-0.31,P<0.01),MNA-SF(β=0.26,P<0.01)であった(R2=0.29,P<0.01)。
【結論】
本研究より,半数以上の対象者が術後食事摂取によってエネルギー必要量を満たせていなかった。また,交絡変数で調整してもエネルギー充足率はADL改善に影響していた。食事摂取量の低下は異化亢進に繋がり,筋蛋白合成を阻害する事でADL改善に影響を与えたと考えられる。本研究結果は,術後理学療法において可変因子である食事摂取量に着目する事がADL改善の為に重要であることを示唆している。
本邦における大腿骨近位部骨折患者は高齢化に伴い増加している。先行研究において術後1年の死亡率に急性期病院退院時ADLが影響するとの報告があり,術後のADL獲得は重要である。また,大腿骨近位部骨折患者は最大で約60%が低栄養であると報告されており,入院後の食事摂取量低下や術後異化反応の亢進により栄養状態は更に悪化するとも報告されている。低栄養状態はリハビリテーションによるADL獲得の阻害要因と考えられるが,低栄養状態に至る原因の一つである食事摂取量がADLに与える影響は明らかではない。食事摂取量は可変因子であり,ADLに与える影響を明確にする事はその改善の為に重要である。本研究の目的は術後食事摂取量が入院中のADL改善に与える影響を多施設で検討する事である。
【方法】
研究デザインは前向き観察研究である。対象は急性期病院3施設に入院した65歳以上の転倒による大腿骨近位部骨折患者のうち,受傷前からの嚥下障害例,歩行不可例等を除外した201名とした。ADLの獲得はFIM運動項目を術後翌日と退院時に評価し,退院時-術後翌日の値をFIM利得として算出した。食事摂取量(Energy Intake:以下EI)はエネルギー充足率として以下の手順で2群に分類した。まず,術後翌日から7日目までのEIの平均値を看護記録より算出した。次にHarris-Benedict式を用いて基礎エネルギー必要量(Basal Energy Expenditure:以下BEE)を算出し,BEEにストレス係数を1.1として乗じた後(BEE×1.1),EIをBEE×1.1で除した値(EI/BEE×1.1)をエネルギー充足率とした。その後,体重減少の観点からEI/BEE×1.1<1を非充足群,EI/BEE×1.1≥1を充足群として分類した。統計解析は,FIM利得を目的変数,エネルギー充足率を説明変数とし,年齢,性別,BMI,握力,下腿周径,上腕周径,MNA-SF,アルブミン,受傷前歩行能力,認知機能,併存疾患,術後合併症等のうち,エネルギー充足率と関連のあった変数を交絡変数とした重回帰分析を行った。
【結果】
非充足群106名(52.8%,平均年齢83.5±7.27歳),充足群95名(47.2%,平均年齢83.3±7.12歳)であった。FIM運動項目利得は非充足群で23.5±16.6,充足群31.5±19.5であった(P<0.05)。交絡変数として受傷前歩行能力,認知機能,MNA-SFにおいて2群間で有意差を認めた。重回帰分析の結果,FIM運動項目利得と関連を認めた変数はエネルギー充足率(β=0.13,P<0.05),認知機能(β=-0.31,P<0.01),MNA-SF(β=0.26,P<0.01)であった(R2=0.29,P<0.01)。
【結論】
本研究より,半数以上の対象者が術後食事摂取によってエネルギー必要量を満たせていなかった。また,交絡変数で調整してもエネルギー充足率はADL改善に影響していた。食事摂取量の低下は異化亢進に繋がり,筋蛋白合成を阻害する事でADL改善に影響を与えたと考えられる。本研究結果は,術後理学療法において可変因子である食事摂取量に着目する事がADL改善の為に重要であることを示唆している。