[O-TK-01-5] 地域在住高齢者における栄養障害は歩行時の姿勢安定性低下と関連する
―1年間の縦断研究―
Keywords:地域在住高齢者, 栄養障害, 歩行
【はじめに,目的】
歩行の安定性は転倒を予防し,身体活動量を維持していく上で非常に重要である。栄養障害は地域在住高齢者の10-40%に生じているとされる健康上の問題のひとつであり,骨格筋機能や運動制御機能を低下させ,歩行にも影響を及ぼすと考えられている。我々は横断調査により栄養障害を有する地域在住高齢者では,歩行時の姿勢安定性が低下していることを報告した。しかし,縦断的検討でなかったため,その因果関係は明らかになっていない。本研究の目的は,地域在住高齢者において,栄養障害が歩行の安定性低下に影響を与えるのか,縦断的に検討することである。
【方法】
対象は,2011年~2013年の間に実施した体力測定会に参加した地域在住高齢者331名の内,独歩困難な者,歩行に影響を及ぼす神経疾患を有する者,データ欠損者,1年後の再評価が行えなかった者を除いた151名であった(72.8±4.5歳,女性:79名)。ベースラインでの栄養状態の評価としてmini nutritional assessment-short form(MNA-SF)を使用し,その結果より対象者を栄養障害群(11点以下)と栄養状態良好群(良好群,12点以上)に分類した。ベースラインおよび1年後の再評価において歩行評価を実施した。対象者は下部体幹(第3腰椎棘突起部)に小型加速度センサを装着し,通常速度条件,最大速度条件にて歩行を行った。得られた側方・前後方向の加速度データから波形のなめらかさの指標であるHarmonic Ratio(HR)を算出し,歩行時姿勢安定性の指標とした(値が大きいほど安定していることを示す)。統計解析は,まず,各群におけるHRの1年後の変化について,対応のあるt検定を用いて検討した。次に,従属変数をHRの1年間の変化量とした重回帰分析を行った。独立変数にはベースラインのMNA-SFの分類を,調整変数には,年齢,性別,歩行速度,握力,Skeletal muscle mass indexの1年間の変化量を用いた。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者は,32名の栄養障害群(21.2%),119名の良好群(78.8%)に分類された。栄養障害群において,通常速度条件の側方のHRは1年後に有意に上昇し(ベースライン:1.89±0.52,1年後:2.06±0.60,p=0.02),最大速度条件の前後方向のHRは有意に低下した(4.09±1.14,3.50±0.81,p<0.01)。その他のHRに有意な変化はみられなかった。良好群においては,HRの有意な変化はみられなかった。重回帰分析の結果において,通常速度条件の側方のHRの変化量(標準β=0.18,p=0.03),最大速度条件の前後方向のHRの変化量(標準β=-0.19,p=0.02)とMNA-SFは有意に関連していた。
【結論】
本研究により,地域在住高齢者において,栄養障害は歩行の安定性に影響を及ぼす要因の一つであることが明らかとなった。栄養障害を有する高齢者は,通常速度歩行では側方の安定性を高めるような方略をとるようになるが,最大速度歩行では安定性低下が強く現れていた。
歩行の安定性は転倒を予防し,身体活動量を維持していく上で非常に重要である。栄養障害は地域在住高齢者の10-40%に生じているとされる健康上の問題のひとつであり,骨格筋機能や運動制御機能を低下させ,歩行にも影響を及ぼすと考えられている。我々は横断調査により栄養障害を有する地域在住高齢者では,歩行時の姿勢安定性が低下していることを報告した。しかし,縦断的検討でなかったため,その因果関係は明らかになっていない。本研究の目的は,地域在住高齢者において,栄養障害が歩行の安定性低下に影響を与えるのか,縦断的に検討することである。
【方法】
対象は,2011年~2013年の間に実施した体力測定会に参加した地域在住高齢者331名の内,独歩困難な者,歩行に影響を及ぼす神経疾患を有する者,データ欠損者,1年後の再評価が行えなかった者を除いた151名であった(72.8±4.5歳,女性:79名)。ベースラインでの栄養状態の評価としてmini nutritional assessment-short form(MNA-SF)を使用し,その結果より対象者を栄養障害群(11点以下)と栄養状態良好群(良好群,12点以上)に分類した。ベースラインおよび1年後の再評価において歩行評価を実施した。対象者は下部体幹(第3腰椎棘突起部)に小型加速度センサを装着し,通常速度条件,最大速度条件にて歩行を行った。得られた側方・前後方向の加速度データから波形のなめらかさの指標であるHarmonic Ratio(HR)を算出し,歩行時姿勢安定性の指標とした(値が大きいほど安定していることを示す)。統計解析は,まず,各群におけるHRの1年後の変化について,対応のあるt検定を用いて検討した。次に,従属変数をHRの1年間の変化量とした重回帰分析を行った。独立変数にはベースラインのMNA-SFの分類を,調整変数には,年齢,性別,歩行速度,握力,Skeletal muscle mass indexの1年間の変化量を用いた。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者は,32名の栄養障害群(21.2%),119名の良好群(78.8%)に分類された。栄養障害群において,通常速度条件の側方のHRは1年後に有意に上昇し(ベースライン:1.89±0.52,1年後:2.06±0.60,p=0.02),最大速度条件の前後方向のHRは有意に低下した(4.09±1.14,3.50±0.81,p<0.01)。その他のHRに有意な変化はみられなかった。良好群においては,HRの有意な変化はみられなかった。重回帰分析の結果において,通常速度条件の側方のHRの変化量(標準β=0.18,p=0.03),最大速度条件の前後方向のHRの変化量(標準β=-0.19,p=0.02)とMNA-SFは有意に関連していた。
【結論】
本研究により,地域在住高齢者において,栄養障害は歩行の安定性に影響を及ぼす要因の一つであることが明らかとなった。栄養障害を有する高齢者は,通常速度歩行では側方の安定性を高めるような方略をとるようになるが,最大速度歩行では安定性低下が強く現れていた。