[O-TK-02-1] 地域在住中高齢者における歩行時の姿勢に関する加齢変化
姿勢計測アプリケーションを用いた3年間の追跡調査結果
Keywords:姿勢, 加齢, 歩行
高齢者の歩行速度は60歳前半から減少し,70歳前半からその減少の程度は一層大きくなることが報告されており,その要因として,加齢に伴う下肢筋力の低下や関節可動域の狭小化などが挙げられている。一方,姿勢に関しても加齢に伴い前傾することが示されているものの,姿勢変化が歩行能力や下肢筋力とどのように関連するか,充分に言及されていないのが現状である。そこで我々は,スマートフォンの内蔵センサーから傾斜角度を記録するアプリケーションを開発,同アプリケーションを用いて,立位・歩行時の姿勢を測定し,評価法としての妥当性および再現性を報告してきた。本学会においても,地域在住女性高齢者の歩行時の姿勢を横断的あるいは縦断的に調査し,これまでに歩行時の姿勢が,年齢や歩行能力と関連することを報告してきた。しかし,調査の対象人数および追跡期間が十分でなく,これまで歩行時の姿勢に関する加齢変化については明らかになっていない。そこで本研究では,対象者や追跡期間を拡大し,歩行時の姿勢に関する加齢変化について調査することを目的とした。
地域在住中高齢者向けに毎年運動機能測定会を開催しており,本測定会において3年間の追跡調査が可能であった女性17名(年齢69.2±5.4歳,身長153.2±4.0 cm,体重49.8±7.1 kg)を本研究の対象とした。姿勢は先行研究に準拠し,予め体幹(胸骨前面)にスマートフォンを固定したうえで,姿勢測定アプリケーション「 Sver 2.3」を用い,安静立位時および快適歩行時の体幹傾斜角度を測定した。なお,体格による影響を除くために,快適歩行時の姿勢は,安静立位時の姿勢で補正した値を用いた。さらに,身体機能として,快適歩行時の歩行速度および歩行率,下肢筋力(右等尺性膝伸展筋力),Timed Up and Go test(TUG)を測定した。統計処理は,3年間における各測定値の変化の傾向をJonckheere-Terpstraの傾向検定を用いて検証した。なお,統計学的有意水準を危険率5%未満とした。
解析の結果,快適歩行時の姿勢(p<0.01)と歩行率(p<0.01)において有意差を認め,3年間で快適歩行時の姿勢が前傾し,歩行率が減少していく傾向があることが示された。一方で,安静立位時の姿勢や下肢筋力,快適歩行時の歩行速度やTUGにおいては,3年間で一定の変化の傾向は認められなかった。
地域在住女性中高齢者において,安静立位時の姿勢は3年間で加齢変化は認められないものの,快適歩行時の姿勢は,加齢とともに体幹が前傾していくことが示された。なお,下肢筋力やTUG,歩行速度においては加齢による影響が認められない一方で,快適歩行時の姿勢や歩行率に加齢変化を認めた。すなわち,地域在住女性中高齢者では,安静立位時の姿勢や下肢筋力,TUG,歩行速度の変化よりも先に,歩行時の姿勢や歩行率の低下から変化を示す可能性が考えられた。