[O-TK-02-3] 高齢者に対する気分・感情評価としてのPOMS-VASの妥当性の検討
Keywords:POMS, 視覚的アナログスケール(VAS), 高齢者
【はじめに,目的】
近年,慢性疼痛や認知障害に抑うつ気分など心理状態が影響することが示され,理学療法分野においても気分・感情状態を定量的に評価する重要性が高まっている。しかし,既存の気分・感情状態の評価は,多数の項目への回答を要求する質問票が主で,臨床で頻回に評価することは困難である。そこで先行研究では,気分・感情状態評価として広く用いられているPOMS短縮版(POMS-SF)で評価される6つの気分・感情状態を,それぞれに視覚的アナログスケール(VAS)で測定するPOMS-VASが開発され,その妥当性が示された。しかし,これまでの対象は若年者のみであり,リハビリテーションの主な対象となる高齢者での妥当性は明らかでない。そこで本研究では,高齢者を対象に,POMS-VASの気分・感情状態評価としての併存的妥当性を検討した。
【方法】
対象は,測定協力依頼に応じ,自発的に測定会に参加した地域在住高齢者114名(74.3±6.1歳)とした。対象者の「現在」の気分・感情状態を,POMS-SFおよびPOMS-VASにて測定した。POMS-SFは30項目からなる質問票で,それぞれの項目得点から,緊張-不安,抑うつ-落ち込み,怒り-敵意,活気,疲労,混乱の6つの下位尺度得点を算出して解析に用いた。さらに,下位尺度得点からTotal Mood Disturbance(TMD)を算出した。TMDは活気以外の5つの下位尺度の合計から活気得点を引いた値であり,全体的気分として解析に用いた。POMS-VASはPOMS-SFの下位尺度に準じ,緊張,抑うつ,怒り,活気,疲労,混乱の6項目について測定した。VASは,紙面上に配置された10cmの直線の左端を「まったくない」,右端を「これ以上ないくらい強い」としてチェックさせた。それぞれに,左端からチェック箇所までの距離を測定値とした。さらに得られた6つの値から,POMS-SFのTMDに準じて全体的気分を算出した。なお,POMS-SF,POMS-VASともに測定者立ち会いのもと,自記式の回答を基本とし,視力の影響で質問の読解が困難な際には,測定者が質問を読み上げた。統計学的解析として,POMS-SFとPOMS-VASの対応項目間で,Spearmanの順位相関係数を検討した。
【結果】
POMS-SFとPOMS-VASの対応項目間の相関分析では,すべての項目において有意な正の相関を認めた(緊張:ρ=0.48,抑うつ:ρ=0.37,怒り:ρ=0.30,活気:ρ=0.58,疲労:ρ=0.58,混乱:ρ=0.52,全体的気分:ρ=0.59,全てp <0.01)。
【結論】
POMS-VASによる気分・感情状態評価の結果は,POMS-SFの対応項目とそれぞれ中等度の相関が認められ,POMS-VASの併存的妥当性が示されたといえる。しかし,この相関係数は,先行研究で示されている若年者(ρ=0.51-0.74)よりも低い結果であった。これは,POMS-VAS,POMS-SFともに設問項目の理解が不十分であった可能性が示唆される。今後は,認知機能障害の程度を考慮した解析を行い,POMS-VASの適応基準を定めていく必要がある。
近年,慢性疼痛や認知障害に抑うつ気分など心理状態が影響することが示され,理学療法分野においても気分・感情状態を定量的に評価する重要性が高まっている。しかし,既存の気分・感情状態の評価は,多数の項目への回答を要求する質問票が主で,臨床で頻回に評価することは困難である。そこで先行研究では,気分・感情状態評価として広く用いられているPOMS短縮版(POMS-SF)で評価される6つの気分・感情状態を,それぞれに視覚的アナログスケール(VAS)で測定するPOMS-VASが開発され,その妥当性が示された。しかし,これまでの対象は若年者のみであり,リハビリテーションの主な対象となる高齢者での妥当性は明らかでない。そこで本研究では,高齢者を対象に,POMS-VASの気分・感情状態評価としての併存的妥当性を検討した。
【方法】
対象は,測定協力依頼に応じ,自発的に測定会に参加した地域在住高齢者114名(74.3±6.1歳)とした。対象者の「現在」の気分・感情状態を,POMS-SFおよびPOMS-VASにて測定した。POMS-SFは30項目からなる質問票で,それぞれの項目得点から,緊張-不安,抑うつ-落ち込み,怒り-敵意,活気,疲労,混乱の6つの下位尺度得点を算出して解析に用いた。さらに,下位尺度得点からTotal Mood Disturbance(TMD)を算出した。TMDは活気以外の5つの下位尺度の合計から活気得点を引いた値であり,全体的気分として解析に用いた。POMS-VASはPOMS-SFの下位尺度に準じ,緊張,抑うつ,怒り,活気,疲労,混乱の6項目について測定した。VASは,紙面上に配置された10cmの直線の左端を「まったくない」,右端を「これ以上ないくらい強い」としてチェックさせた。それぞれに,左端からチェック箇所までの距離を測定値とした。さらに得られた6つの値から,POMS-SFのTMDに準じて全体的気分を算出した。なお,POMS-SF,POMS-VASともに測定者立ち会いのもと,自記式の回答を基本とし,視力の影響で質問の読解が困難な際には,測定者が質問を読み上げた。統計学的解析として,POMS-SFとPOMS-VASの対応項目間で,Spearmanの順位相関係数を検討した。
【結果】
POMS-SFとPOMS-VASの対応項目間の相関分析では,すべての項目において有意な正の相関を認めた(緊張:ρ=0.48,抑うつ:ρ=0.37,怒り:ρ=0.30,活気:ρ=0.58,疲労:ρ=0.58,混乱:ρ=0.52,全体的気分:ρ=0.59,全てp <0.01)。
【結論】
POMS-VASによる気分・感情状態評価の結果は,POMS-SFの対応項目とそれぞれ中等度の相関が認められ,POMS-VASの併存的妥当性が示されたといえる。しかし,この相関係数は,先行研究で示されている若年者(ρ=0.51-0.74)よりも低い結果であった。これは,POMS-VAS,POMS-SFともに設問項目の理解が不十分であった可能性が示唆される。今後は,認知機能障害の程度を考慮した解析を行い,POMS-VASの適応基準を定めていく必要がある。