第51回日本理学療法学術大会

Presentation information

一般演題口述

日本予防理学療法学会 一般演題口述
(予防)01

Fri. May 27, 2016 10:00 AM - 11:00 AM 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:土井剛彦(国立長寿医療研究センター)

[O-YB-01-3] 軽度認知障害およびアルツハイマー病患者において前頭葉機能低下は12ヶ月後の新規尿失禁発生の危険因子である―前向き観察研究―

杉本大貴1,2,3, 小野玲3, 村田峻輔3, 鳥羽研二1, 櫻井孝1 (1.国立長寿医療研究センターもの忘れセンター, 2.国立長寿医療研究センターメディカルゲノムセンター, 3.神戸大学大学院保健学研究科)

Keywords:尿失禁, 認知障害, 前頭葉機能

【はじめに,目的】

軽度認知障害(Mild cognitive impairment:MCI)およびアルツハイマー病(Alzheimer's Disease:AD)患者は尿失禁を有することが多い。尿失禁は,転倒,うつ,生活機能・QOLの低下を惹起するだけでなく,介護者の負担を増大させる重要な日常生活活動(Activity of Daily Living:ADL)の一つである。尿失禁は前頭葉機能と関連することが示唆されてきたが,横断的検討に留まっており尿失禁の新規発生との関連性は明らかになっていない。本研究の目的は,MCI,AD患者において前頭葉機能と尿失禁新規発生との関連性を明らかにすることである。

【方法】

対象は,2011年3月~2014年7月の間に,もの忘れセンターを外来受診し,初診時に神経心理検査をすべて測定できた60歳以上のMCIまたはADと診断された278名である。約12ヶ月後に追跡調査可能であった211名(フォロー率75.9%)のうち,初診時に尿失禁のある18名を除いた193名(年齢:76.8±6.5歳,女性:68.9%,MCI:65名,AD128名)を最終的な解析対象とした。尿失禁の発生は,Dementia Behavior Disturbance Scaleの「尿失禁する」の項目をもちいて5件法により介護者に聴取し,「全くない」,「ほとんどない」を尿失禁なし,「ときどきある」,「よくある」,「常にある」を尿失禁ありと判定した。認知機能は,全般的,前頭葉,記憶,視覚-空間機能をそれぞれMini-Mental State Examination(MMSE),Frontal Assessment Battery(FAB),Wecheler Memory Scale-Revicedの論理的記憶,Raven's Colored Progressive Materices(RCPM)にて評価した。教育歴,抗認知症薬服用の有無,Body mass index(BMI),併存疾患,転倒歴を調査し,ADLをBarthel Index,抑うつ症状をGeriatric Depression Scale,意欲をVitality Index,運動機能としてTimed Up & Go testの測定を行った。統計解析は,尿失禁の新規発生の有無により群分けし,対応のないt検定,χ2検定により各測定項目の群間比較を行った。また,尿失禁の新規発生の有無を従属変数,年齢,性別,教育歴,BMI,抗認知症薬の有無,追跡期間,各認知機能に加え,群間比較で有意な差を認めた変数を独立変数とした多変量ロジスティック回帰分析を行った。

【結果】

平均388.9±80.4日の追跡期間で,尿失禁発生者は25名(13.0%)であった。尿失禁発生群では,年齢が高く(79.4±5.8 vs 76.4±6.5,p<.05),FAB(8.2±2.7 vs 10.2±2.9,p<.01),論理的記憶(3.8±4.6 vs 6.6±6.1,p<.05),RCPM(19.8±7.5 vs 23.4±6.7,p<.05)の成績が悪く,追跡期間が長かった(437.4±61 vs 381.7±80,p<.01)。多変量解析の結果,尿失禁発生と関連を認めたのはFAB(OR=0.78,[0.63-0.97])と追跡期間(OR=1.01,[1.00-1.01])であった。

【結論】

MCI,AD患者において前頭葉機能低下が約12ヶ月後の尿失禁発生の危険因子であった。先行研究にて認知課題と運動を組み合わせた介入は,前頭葉機能を改善させることが報告されており,前頭葉機能に対する介入により尿失禁発生を予防できる可能性が示唆された。