第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本予防理学療法学会 一般演題口述
(予防)01

2016年5月27日(金) 10:00 〜 11:00 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:土井剛彦(国立長寿医療研究センター)

[O-YB-01-5] 認知機能低下と関係する歩行パラメーター

島田裕之, 牧迫飛雄馬, 土井剛彦, 堤本広大, 中窪翔, 牧野圭太郎 (国立長寿医療研究センター)

キーワード:認知機能, 歩行, 変動係数

【はじめに,目的】認知機能の低下抑制に対して運動の効果が示されるようになり,理学療法領域においても,認知機能低下抑制に対するアプローチが進みつつある。今後,団塊世代が認知症の好発年齢を迎え,認知症予防に対する積極的な取り組みが望まれるが,そのためには認知機能低下の関連因子を同定して,運動療法によって改善可能な要因を検討していく必要がある。本研究では,認知機能低下をmini-mental state examination(MMSE)の得点が23点以下の高齢者を認知機能低下とし,それに関連する歩行パラメーターを大規模集団の横断データによって検討した。


【方法】愛知県における高齢者機能健診に参加した地域在住高齢者10885名のうち,パーキンソン病,脳卒中,認知症の既往者,最近3か月以内に入院した者,測定項目に欠損があった者を除く9795名を対象とした。測定項目は,基本属性(年齢,性,教育歴),現病歴(高血圧,心疾患,呼吸器疾患,変形性膝関節症,糖尿病の有無),歩行パラメーター(歩行速度,ケーデンス,ストライド長,歩行速度の変動係数,ケーデンスの変動係数,ストライド長の変動係数),およびMMSEであった。歩行速度の測定は,Walkウェイを用いて通常歩行にて5回計測し,平均値を用いた。統計処理はMMSE(24/23点)を従属変数とし,その他の測定項目を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を実施した。


【結果】MMSEの得点が23点以下の全般的認知機能低下に対して有意であった項目のオッズ比は,年齢(オッズ比1.05,95%信頼区間1.03―1.06),性(女性に対して男性のオッズ比2.14,95%信頼区間1.88―2.44),教育歴(オッズ比0.84,95%信頼区間0.82―0.86),変形性膝関節症(なしに対してありのオッズ比0.80,95%信頼区間0.69―0.93),歩行速度の変動係数(オッズ比1.06,95%信頼区間1.02―1.10)であった。有意であった項目を独立変数として,歩行速度の変動係数を四分位に分類して多重ロジスティック回帰分析を実施した結果,Q1に対してQ4のみが有意なオッズ比を示し,その値は1.46(95%信頼区間1.25―1.71)であった。なお,歩行速度の変動係数の75パーセンタイル値は5.95%であった。


【結論】全般的認知機能の低下と関連した歩行パラメーターは,歩行速度の変動係数であった。今回の測定方法は,短距離の歩行路を5回に分けて測定する方法を採用しており,連続歩行内での歩行速度の変動を示すものではない。そのため,今回の歩行速度の変動は,前の課題遂行状態をイメージして同様のパフォーマンスを再現できるかといった課題となっている。身体機能の代表的な指標である歩行速度が関連せずに,変動係数が関連したのは,このイメージの再現の過程における脳機能の低下が,全般的認知機能低下と関連したのかもしれない。今後は前方視的な解析によって,歩行速度の変動係数が認知機能低下の予測因子になり得るかを検討していく必要がある。