[O-YB-02-6] 地域在住高齢者における歩行中の体幹加速度の解析
転倒経験の有無による比較と重心動揺との関係
キーワード:高齢者, 転倒, 体幹加速度
【はじめに】高齢者の転倒に関連する因子として,筋力,歩行速度などの量的評価による報告は多い。一方,質的評価としては静止立位での重心動揺が一般的であり,動作の質的評価によって転倒との関連を検討した報告は少ない。加速度センサで体幹加速度を測定する歩行評価では,波形解析を加えることで左右対称性,動揺性,円滑性などが評価でき,質的な歩行評価として有用である。本研究の目的は,高齢者の歩行中の体幹加速度を測定し,解析結果を転倒経験の有無で比較することに加え,静的なバランス機能の指標である重心動揺との関係を検討することで,転倒しやすい高齢者の特徴を明らかにすることである。
【方法】対象は,自治体の特定健診に参加した住民の内,我々が実施する身体機能測定に任意で参加した65歳以上の高齢者143名で,1年以内に転倒経験のあった者を転倒群,なかった者を非転倒群とした。体幹加速度は,第3腰椎高位で腰背部に小型無線モーションレコーダ(マイクロストーン社製)を固定し,約10mの歩行路における自由歩行を測定し,歩行安定後の連続する3歩行周期のデータを左右,前後,垂直成分別に解析した。左右対称性の指標として自己相関係数(autocorrelation coefficient;ACC),動揺性の指標として二乗平均平方根(root mean square;RMS),円滑性の指標として周波数解析結果の平均情報量を算出した。重心動揺は重心動揺計(アニマ社製)を用いて開眼・閉眼条件を各30秒間計測し,各条件の外周面積,単位面積軌跡長,総軌跡長を指標とした。統計処理として,両群の属性および体幹加速度解析結果をMann-WhitneyのU検定またはχ2検定で比較した後,有意差を認めた体幹加速度解析結果と重心動揺の指標の相関をSpearmanの順位相関係数で検討した。なお,相関係数の算出には転倒群のデータのみ用いた。統計学的有意水準は5%とした。
【結果】転倒群22名,非転倒群121名であり,女性の転倒頻度が有意に高かったが,年齢,身長,体重に有意差はなかった。体幹加速度は,転倒群のACC前後成分(0.56±0.08)と垂直成分(0.56±0.12)が非転倒群(前後:0.60±0.08,垂直:0.62±0.08)より有意に低かった。両群のRMSと平均情報量は,全成分で有意差がなかった。ACC前後成分は重心動揺の指標とは相関を認めず,垂直成分のみ開眼の外周面積(r=-0.54),総軌跡長(r=-0.66),閉眼の総軌跡長(r=-0.54)と高い相関を認めた。
【結論】転倒群のACC前後成分と垂直成分が非転倒群より有意に低かったことから,高齢者の転倒には矢状面での左右対称性の破綻の関与が示唆された。高齢者の転倒の6割が前方への転倒であったという他者の報告からも,矢状面での安定性は転倒を予防する上で重要な要素と考えられる。また,転倒群の垂直成分のみが重心動揺と相関していたことから,動的な評価である体幹加速度と静的な評価である重心動揺は異なる指標として考慮すべきである。
【方法】対象は,自治体の特定健診に参加した住民の内,我々が実施する身体機能測定に任意で参加した65歳以上の高齢者143名で,1年以内に転倒経験のあった者を転倒群,なかった者を非転倒群とした。体幹加速度は,第3腰椎高位で腰背部に小型無線モーションレコーダ(マイクロストーン社製)を固定し,約10mの歩行路における自由歩行を測定し,歩行安定後の連続する3歩行周期のデータを左右,前後,垂直成分別に解析した。左右対称性の指標として自己相関係数(autocorrelation coefficient;ACC),動揺性の指標として二乗平均平方根(root mean square;RMS),円滑性の指標として周波数解析結果の平均情報量を算出した。重心動揺は重心動揺計(アニマ社製)を用いて開眼・閉眼条件を各30秒間計測し,各条件の外周面積,単位面積軌跡長,総軌跡長を指標とした。統計処理として,両群の属性および体幹加速度解析結果をMann-WhitneyのU検定またはχ2検定で比較した後,有意差を認めた体幹加速度解析結果と重心動揺の指標の相関をSpearmanの順位相関係数で検討した。なお,相関係数の算出には転倒群のデータのみ用いた。統計学的有意水準は5%とした。
【結果】転倒群22名,非転倒群121名であり,女性の転倒頻度が有意に高かったが,年齢,身長,体重に有意差はなかった。体幹加速度は,転倒群のACC前後成分(0.56±0.08)と垂直成分(0.56±0.12)が非転倒群(前後:0.60±0.08,垂直:0.62±0.08)より有意に低かった。両群のRMSと平均情報量は,全成分で有意差がなかった。ACC前後成分は重心動揺の指標とは相関を認めず,垂直成分のみ開眼の外周面積(r=-0.54),総軌跡長(r=-0.66),閉眼の総軌跡長(r=-0.54)と高い相関を認めた。
【結論】転倒群のACC前後成分と垂直成分が非転倒群より有意に低かったことから,高齢者の転倒には矢状面での左右対称性の破綻の関与が示唆された。高齢者の転倒の6割が前方への転倒であったという他者の報告からも,矢状面での安定性は転倒を予防する上で重要な要素と考えられる。また,転倒群の垂直成分のみが重心動揺と相関していたことから,動的な評価である体幹加速度と静的な評価である重心動揺は異なる指標として考慮すべきである。