第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本予防理学療法学会 一般演題口述
(予防)03

2016年5月27日(金) 12:30 〜 13:30 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:柴喜崇(北里大学医療衛生学部)

[O-YB-03-1] 高齢者の転倒の背景にある転倒未遂

―前向きコホート研究による調査―

永井宏達1, 小松みゆき2, 玉木彰1, 山田実3, 坪山直生4 (1.兵庫医療大学リハビリテーション学部, 2.サンシティパレス塚口, 3.筑波大学大学院人間総合科学研究科, 4.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)

キーワード:フレイル, 転倒, 高齢者

【はじめに,目的】

高齢者の転倒は,要介護状態や医療費の高騰に直結する問題であるため,そのリスクの把握や軽減に関する研究がこれまで多くなされてきた。この転倒の背景には,実際に転倒に至る前の未遂(ヒヤリハット)が存在している可能性が考えられるが,それに関する研究報告はこれまでほぼ皆無であり,実態が明らかになっていない。転倒未遂の実態調査は,適切な転倒リスクの把握,および転倒予防法確立のための重要な知見になると思われる。本研究の目的は転倒発生と転倒未遂の関係を調査し,その実態を明らかにすることである。




【方法】

本研究のデザインは前向きコホート研究である。高齢者マンションに在住する高齢者556名を対象とした。重度の整形外科的疾患,視覚障害,脳卒中,神経疾患,認知機能障害などを有する症例は対象から除外した。転倒未遂の定義は「ふらつき,つまずき等により,転倒に至る可能性を感じた場合」とした。転倒未遂発生の有無について,毎日チェック表への記入を促し,2週間ごとに提出を求めた。転倒未遂があった場合,その詳細に関するレポートの提出を求めた。転倒未遂の調査は3ヶ月間実施した。その後,実際の転倒発生について電話による聞き取り調査を毎月実施し,6カ月間フォローした。評価項目として,昨年の転倒歴,服薬,Friedらの項目に従った身体的フレイル(体重減少,活力低下,活動量低下,歩行速度低下,筋力低下)の調査,およびTimed up and goテスト(TUG)を実施した。統計解析として,記述統計を実施した後,Cox比例ハザードモデルを用いて,転倒に寄与する因子を分析した。モデルでは年齢,性別,BMIで調整を行い,転倒発生に寄与しうる因子として,転倒歴,多剤投与,身体的フレイル,TUG,転倒未遂経験の有無について検討した。




【結果】

研究に同意が得られ,除外基準に該当せず,期間終了までフォローアップが可能であった高齢者60名(年齢:80±5歳)を解析対象とした。3ヶ月間で転倒未遂を経験したのは38%(23名),転倒未遂の総数は71回であった。転倒未遂経験者一人あたりの未遂回数は中央値2(四分位範囲2)であった。全対象者の6ヶ月間の転倒発生率は13%(8名)であり,転倒者のうち75%(6名)は転倒未遂を経験していた。Cox比例ハザードモデルによる分析の結果,転倒発生に寄与する因子として,身体的フレイル(調整済みハザード比13.8(95%CI 2.1-89.9,p<0.01),転倒未遂経験の有無(調整済みハザード比6.0(95%CI 1.1-31.7,p<0.05)が抽出された(モデルχ2:p<0.01)。




【結論】

本研究の結果より,高齢者の転倒の背景には,身体的フレイルに加えて日常における転倒未遂が潜在していることが明らかになった。