[O-YB-03-3] 聴覚刺激が高齢者の立位姿勢制御に与える影響
サンプルエントロピーを用いた非線形解析
キーワード:サンプルエントロピー, 立位姿勢制御, 聴覚刺激
【はじめに,目的】
立位姿勢制御の評価として足圧中心の総軌跡長,つまり身体運動の「量」を計測することが多い。しかし近年,身体運動の「質」を表す身体の変動性を評価することの重要性が指摘されている。この変動性の評価として,サンプルエントロピー(SampEn)がよく用いられている。SampEnは変動性の複雑性を定量化するのに有用であり,その低下はより規則的・周期的な変動性構造を示し,ロボットのように関節自由度・柔軟性の低い状態を意味する。加齢に伴い身体の変動性構造は変化し,SampEnは低下すること,つまり姿勢が不安定になることが報告されている。
一方,パーキンソン病患者にメトロノーム音ではなく,カオス波形をもった音(カオスノイズ)の聴覚刺激を与えることにより,姿勢が安定化するという報告がある。しかし,カオスノイズの聴覚刺激が健常高齢者の姿勢制御に及ぼす影響については明らかではない。
そこで本研究は,静止立位時の姿勢制御における変動性についてSampEnを用いて評価し,立位姿勢制御の変動性の加齢変化および聴覚刺激による変化を検討した。
【方法】
対象者は健常高齢者16名(年齢84.1±6.7歳)および健常若年者16名(年齢24.4±3.2歳)とした。足圧分布測定器(Medicapteurs製)を使用し,開眼静止立位時の足圧中心(CoP)を測定した。ノイズキャンセリングのヘッドホンを用い,ノーマル(聴覚刺激を与えない条件),カオスノイズ(カオス波形をもった音),ホワイトノイズ(完全にランダムな音)の3つの聴覚刺激条件で測定を実施した。各条件につき30秒間の測定を2セット,ランダムに実施した。得られたCoPデータより,線形解析による総軌跡長および非線形解析によるSampEnをMatlab(MathWorks製)を使用して算出した。なお,SampEnの低下は関節自由度・柔軟性の低い状態を示し,姿勢安定性の低下を意味する。
統計処理は二元配置分散分析(ノイズ条件×群間)を行い,交互作用が認められた場合は事後検定として多重比較を行った。
【結果】
SampEnにおいて,群間に主効果がみられ,高齢者が若年者よりも低値を示した。また交互作用がみられ多重比較を行った結果,高齢者ではノーマルとホワイトノイズ条件と比較してカオスノイズ条件では有意に高い値を示した。一方,若年者ではノイズ条件による有意差はみられなかった。総軌跡長については群間に主効果がみられ,高齢者が若年者よりも高値を示したが,ノイズ条件の主効果および交互作用は認められなかった。
【結論】
高齢者の姿勢制御において,CoPの総軌跡長はノイズ条件による変化はみられないが,SampEnはノイズ条件による影響が認められ,カオスノイズによってCoPの変動性構造が変化し安定性が向上したことが示唆された。つまり,非線形解析によって,線形解析だけでは確認できなかった聴覚刺激による安定性変化が確認され,非線形解析が姿勢安定性を評価する上で重要であることが示された。
立位姿勢制御の評価として足圧中心の総軌跡長,つまり身体運動の「量」を計測することが多い。しかし近年,身体運動の「質」を表す身体の変動性を評価することの重要性が指摘されている。この変動性の評価として,サンプルエントロピー(SampEn)がよく用いられている。SampEnは変動性の複雑性を定量化するのに有用であり,その低下はより規則的・周期的な変動性構造を示し,ロボットのように関節自由度・柔軟性の低い状態を意味する。加齢に伴い身体の変動性構造は変化し,SampEnは低下すること,つまり姿勢が不安定になることが報告されている。
一方,パーキンソン病患者にメトロノーム音ではなく,カオス波形をもった音(カオスノイズ)の聴覚刺激を与えることにより,姿勢が安定化するという報告がある。しかし,カオスノイズの聴覚刺激が健常高齢者の姿勢制御に及ぼす影響については明らかではない。
そこで本研究は,静止立位時の姿勢制御における変動性についてSampEnを用いて評価し,立位姿勢制御の変動性の加齢変化および聴覚刺激による変化を検討した。
【方法】
対象者は健常高齢者16名(年齢84.1±6.7歳)および健常若年者16名(年齢24.4±3.2歳)とした。足圧分布測定器(Medicapteurs製)を使用し,開眼静止立位時の足圧中心(CoP)を測定した。ノイズキャンセリングのヘッドホンを用い,ノーマル(聴覚刺激を与えない条件),カオスノイズ(カオス波形をもった音),ホワイトノイズ(完全にランダムな音)の3つの聴覚刺激条件で測定を実施した。各条件につき30秒間の測定を2セット,ランダムに実施した。得られたCoPデータより,線形解析による総軌跡長および非線形解析によるSampEnをMatlab(MathWorks製)を使用して算出した。なお,SampEnの低下は関節自由度・柔軟性の低い状態を示し,姿勢安定性の低下を意味する。
統計処理は二元配置分散分析(ノイズ条件×群間)を行い,交互作用が認められた場合は事後検定として多重比較を行った。
【結果】
SampEnにおいて,群間に主効果がみられ,高齢者が若年者よりも低値を示した。また交互作用がみられ多重比較を行った結果,高齢者ではノーマルとホワイトノイズ条件と比較してカオスノイズ条件では有意に高い値を示した。一方,若年者ではノイズ条件による有意差はみられなかった。総軌跡長については群間に主効果がみられ,高齢者が若年者よりも高値を示したが,ノイズ条件の主効果および交互作用は認められなかった。
【結論】
高齢者の姿勢制御において,CoPの総軌跡長はノイズ条件による変化はみられないが,SampEnはノイズ条件による影響が認められ,カオスノイズによってCoPの変動性構造が変化し安定性が向上したことが示唆された。つまり,非線形解析によって,線形解析だけでは確認できなかった聴覚刺激による安定性変化が確認され,非線形解析が姿勢安定性を評価する上で重要であることが示された。