[O-YB-03-5] 障害物を回避する際の動作直前の歩行制御
Keywords:転倒予防, 歩行制御, 加齢
【はじめに,目的】
歩行中のつまずきは地域在住高齢者の転倒の一要因であり,つまずきの1つの原因には障害物回避の失敗がある。安全に障害物を回避するためには,跨ぐ前の段階での予測的な姿勢制御が重要であるとされる。Patlaら(1996)は障害物を跨ぐ際の下肢の運動軌跡は,障害物に接近する段階で計画されているとしており,転倒リスクや姿勢調節能力を分析する上で,跨ぎ動作そのものに加えて跨ぐ前の歩行に着目することが重要であると考えられる。そこで本研究の目的は,障害物を回避する際の動作直前の歩行制御に及ぼす影響を明らかにすることである。
【方法】
対象者は健常若年者20名(年齢20.6±1.1歳),健常高齢者20名(年齢74.4±5.9歳)とした。課題は10mの自由歩行測定を行った後に,障害物回避動作を含む歩行測定を,障害物の設置位置を変えて2種類設定し,計3条件とした。障害物設置位置は,それぞれの対象者での自由歩行条件時の歩幅をもとに算出した①利き足で跨ぎやすい位置と②非利き足で跨ぎやすい位置とした。各障害物位置の測定順はランダムとし,各条件につき20試行,合計60試行実施した。障害物を設置した試行のうち,自由歩行条件時の歩幅どおりに歩いた場合に跨ぎ側となる足と実際の跨ぎ足が一致した試行を“自然な制御”,反対の足で跨いだ試行を“無理な制御”として分析した。障害物を跨ぐ前の3歩を測定対象とし,シート式足圧接地跡計測装置(MW-1000,アニマ社製)を用いて歩幅,歩隔,踏み切り位置(踏み切る足のつま先と障害物との距離)を測定した。それぞれの評価指標について,平均値と変動係数を算出した。統計処理は,二元配置分散分析及び事後検定をと,対応のないt検定を用いた。有意水準はすべて5%とした。
【結果】
全試行(各群800試行)中,無理な制御は高齢者で31%,若年者で13%となり,高齢者で有意に多かった(p<0.001)。このうち,自然な制御では,跨ぎ動作2歩前の歩幅のばらつきは,高齢者(4.1±1.4%)で若年者(3.0±1.1)より有意に大きくなった。また,無理な制御の際の歩数の変化は,高齢者では跨ぎ動作までの歩数を1歩増加させる試行が82%で,若年者では1歩減少させる制御が89%となり,歩数の制御は有意に異なった(p<0.001)。歩数を1歩減少させる制御では,跨ぎ動作1歩前の歩幅のばらつきは高齢者(4.6±0.6)で若年者(2.4±0.7)より有意に大きくなった。
【結論】
若年者と高齢者とでは無理な制御となる割合に有意な差があり,またその際の歩数の変化も異なった。高齢者の跨ぎ動作直前の歩行制御では歩幅を縮小させ,歩数を増加させる制御が優先的に選択される可能性が示された。また,高齢者が歩数を1歩減少させる制御を選択すると歩幅のばらつきが大きくなり不安定な歩行となった。したがって高齢者では跨ぎ動作直前の歩行を安定させる代償手段として歩数を増加させる歩行制御が合理的であると考えられる。
歩行中のつまずきは地域在住高齢者の転倒の一要因であり,つまずきの1つの原因には障害物回避の失敗がある。安全に障害物を回避するためには,跨ぐ前の段階での予測的な姿勢制御が重要であるとされる。Patlaら(1996)は障害物を跨ぐ際の下肢の運動軌跡は,障害物に接近する段階で計画されているとしており,転倒リスクや姿勢調節能力を分析する上で,跨ぎ動作そのものに加えて跨ぐ前の歩行に着目することが重要であると考えられる。そこで本研究の目的は,障害物を回避する際の動作直前の歩行制御に及ぼす影響を明らかにすることである。
【方法】
対象者は健常若年者20名(年齢20.6±1.1歳),健常高齢者20名(年齢74.4±5.9歳)とした。課題は10mの自由歩行測定を行った後に,障害物回避動作を含む歩行測定を,障害物の設置位置を変えて2種類設定し,計3条件とした。障害物設置位置は,それぞれの対象者での自由歩行条件時の歩幅をもとに算出した①利き足で跨ぎやすい位置と②非利き足で跨ぎやすい位置とした。各障害物位置の測定順はランダムとし,各条件につき20試行,合計60試行実施した。障害物を設置した試行のうち,自由歩行条件時の歩幅どおりに歩いた場合に跨ぎ側となる足と実際の跨ぎ足が一致した試行を“自然な制御”,反対の足で跨いだ試行を“無理な制御”として分析した。障害物を跨ぐ前の3歩を測定対象とし,シート式足圧接地跡計測装置(MW-1000,アニマ社製)を用いて歩幅,歩隔,踏み切り位置(踏み切る足のつま先と障害物との距離)を測定した。それぞれの評価指標について,平均値と変動係数を算出した。統計処理は,二元配置分散分析及び事後検定をと,対応のないt検定を用いた。有意水準はすべて5%とした。
【結果】
全試行(各群800試行)中,無理な制御は高齢者で31%,若年者で13%となり,高齢者で有意に多かった(p<0.001)。このうち,自然な制御では,跨ぎ動作2歩前の歩幅のばらつきは,高齢者(4.1±1.4%)で若年者(3.0±1.1)より有意に大きくなった。また,無理な制御の際の歩数の変化は,高齢者では跨ぎ動作までの歩数を1歩増加させる試行が82%で,若年者では1歩減少させる制御が89%となり,歩数の制御は有意に異なった(p<0.001)。歩数を1歩減少させる制御では,跨ぎ動作1歩前の歩幅のばらつきは高齢者(4.6±0.6)で若年者(2.4±0.7)より有意に大きくなった。
【結論】
若年者と高齢者とでは無理な制御となる割合に有意な差があり,またその際の歩数の変化も異なった。高齢者の跨ぎ動作直前の歩行制御では歩幅を縮小させ,歩数を増加させる制御が優先的に選択される可能性が示された。また,高齢者が歩数を1歩減少させる制御を選択すると歩幅のばらつきが大きくなり不安定な歩行となった。したがって高齢者では跨ぎ動作直前の歩行を安定させる代償手段として歩数を増加させる歩行制御が合理的であると考えられる。