第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題口述

日本予防理学療法学会 一般演題口述
(予防)03

2016年5月27日(金) 12:30 〜 13:30 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:柴喜崇(北里大学医療衛生学部)

[O-YB-03-6] 施設入所高齢者における昇段動作時荷重量と昇段可否および運動機能との関連

神谷碧1, 池添冬芽1, 正木光裕1, 荒木浩二郎1, Malinowska Katarzyna1, 北潔2, 坪山直生1, 市橋則明1 (1.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 2.北整形外科)

キーワード:施設入所高齢者, 段差昇段能力, 下肢荷重量

【はじめに,目的】

段差昇降動作は難易度の高い日常生活動作のひとつである。特に施設入所高齢者のような運動機能レベルが低い虚弱高齢者では,15cm程度の段差昇段は可能であっても,30cm程度の高い段差では昇段困難となる場合が多い。しかし,昇段動作において上段側下肢での支持力と下段を蹴り上げる力のどちらが高い段差の昇段可否と関連しているのか,またどのような運動機能が関連しているかは明らかではない。

そこで本研究は施設入所高齢者を対象に,昇段動作時の上段側と下段側の下肢への荷重量を評価し,高い段差への昇段可否と運動機能との関連性について検討した。




【方法】

対象は施設入所高齢者15名(男性5名,女性10名,82.9±8.5歳)とした。15cmの段差昇段が困難な者,重度の神経学的・整形外科的障害や認知障害を有する者は除外した。

段差型荷重測定機器(協立電子工業製)を用いて,手すりを使用せずに15cmの高さの段を素早く昇段させたときに上段および下段にかかる荷重量を測定した。昇段動作の開始肢位は下段に両下肢を乗せた静止立位とし,右下肢から素早く昇段するように口頭指示を与えてから上段に両下肢が乗った肢位を終了肢位とした。昇段動作における下段を蹴るときに生じる下段の最大荷重量の体重比(下段荷重量),昇段側下肢の支持により生じる上段の最大荷重量の体重比(上段荷重量),昇段動作時間を求めた。

運動機能として,下肢筋力(膝関節伸展筋力,股関節伸展筋力,足関節底屈筋力),バランス能力(開眼片脚立位時間,TUG),下肢筋パワー(5回立ち座り時間),下肢敏捷性(立位ステッピング回数)を評価した。

対象を上肢の支持なしで高い段差(30cm台)が昇段可能な群(8名)と不可能な群(7名)の2群に分類し,2群間の上段・下段荷重量と昇段時間をMann-Whitney U testを用いて比較した。また,昇段時の荷重量と運動機能との関連についてSpearmanの相関分析を用いて検討した。




【結果】

15cm段の昇段動作における下段荷重量の体重比は30cm段昇段可能群が1.08±0.11,昇段不可能群が0.98±0.06で昇段不可能群が有意に低下しており,30cmの高い段差昇段が困難な高齢者は下段を蹴る際の荷重量が減少していることが示された。一方,上段荷重量と動作時間は2群間で有意な差がみられなかった。下段荷重量と運動機能との関連については,股関節伸展筋力,開眼片脚立位時間,立位ステッピング回数との間に有意な正の相関がみられ,TUGとの間に負の相関がみられた。一方,上段荷重量はすべての運動機能と相関はみられなかった。




【結論】

30cm程度の高い段差の昇段可否には上段側よりも下段側下肢の支持不足が影響していること,つまり下段を蹴り上げることが困難な高齢者は高い段差の昇段が困難であることが示唆された。また,この下段への荷重量には,運動機能のなかでも股関節伸展筋力,バランス能力,下肢の敏捷性が関連していることが示唆された。