第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本予防理学療法学会 一般演題口述
(予防)05

Fri. May 27, 2016 2:50 PM - 3:50 PM 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:武藤久司(水戸メディカルカレッジ 理学療法学科)

[O-YB-05-3] 透析患者の転倒と運動パフォーマンスの低下に至る要因分析

河野健一1, 矢部広樹2, 西田裕介3 (1.愛知医療学院短期大学リハビリテーション学科, 2.名古屋共立病院リハビリテーション課, 3.聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部)

Keywords:透析, 転倒, 運動パフォーマンス低下

【はじめに,目的】

近年,透析患者の高齢化が進んでいる。また,透析患者の中には骨ミネラル代謝異常にて血管の異所性石灰化が進むだけでなく,二次性の副甲状腺機能亢進症が出現し,骨代謝異常から骨が脆弱化する。さらに,食事摂取制限等により低栄養状態になることも知られており,蛋白エネルギー消耗状態にて骨格筋量の減少,骨格筋力の低下,いわゆるサルコペニアの状態に陥る患者が多い。サルコペニアのような運動器,特に骨格筋の退行性変化を伴う疾患では,身体機能や運動パフォーマンスが低下するため転倒の危険性が高いことが報告されている。また,透析患者では自律神経機能が低下していることで,透析関連血圧低下(intra-dialytic hypotension,IDH)が出現し易い。自律神経機能の低下は,筋肉量の低下と関連するとされており,サルコペニアのような虚弱透析患者ほどIDHを起こしやすく,かつ転倒しやすいと推察される。以上より,本研究では,透析患者の疾患背景,低栄養炎症状態,そしてサルコペニアといった要因が運動パフォーマンスを低下せるかどうかを明らかにし,また,運動パフォーマンスの低下が透析患者の転倒に及ぼす危険性を明らかにすることを目的とした。


【方法】

歩行が自立した維持血液透析患者287例を対象に,年齢,性別,透析期間,炎症状態(c-reactive protein,CRP),栄養状態(geriatric nutritional risk index,GNRI),筋力,筋肉量,歩行の不安定性(歩行周期変動係数),運動パフォーマンス(short physical performance battery,SPPB)を測定した。SPPBの低下に至る要因を共分散構造分析にてモデル化し,その適合度を検証した。次に,232例の透析患者を対象に,SPPBを含めた転倒の関連因子をCox比例ハザード解析にて検討した。


【結果】

SPPBの低下に至る構造モデルとして,筋力や筋肉量の低下,歩行周期変動係数の増大が直接的に影響することに加え,年齢,透析期間,炎症状態,低栄養状態が骨格筋機能の低下を介して間接的に影響を与えていた。このモデルは高い適合度を示した(CMIN=11.78,p=0.46,GFI=0.99,CFI=1.000)。そして,SPPBの低下(11点以上に対してSPPB8点以下)は,透析患者の独立した転倒危険因子であった(HR=2.33,p<.01)。


【結論】

透析患者の運動パフォーマンスの低下は,患者背景や疾患特性が間接的に影響しながら骨格筋機能の低下を伴って出現することが明らかとなった。また,運動パフォーマンスを測定することは,転倒の危険性を把握するうえで有用であることが示唆された。