第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本予防理学療法学会 一般演題口述
(予防)06

Fri. May 27, 2016 4:00 PM - 5:00 PM 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:高倉保幸(埼玉医科大学 保健医療学部)

[O-YB-06-1] 食道がんにおける術後呼吸器合併症予測因子としてのサルコペニアの有用性

牧浦大祐1,2, 井上順一朗1, 小野玲2, 柏美由紀1, 酒井良忠3, 三浦靖史2,3 (1.神戸大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.神戸大学大学院保健学研究科, 3.神戸大学医学部附属病院リハビリテーション科)

Keywords:サルコペニア, 術後呼吸器合併症, 食道がん

【はじめに】2011年度のがん登録全国推計では,新たに食道がんと診断された患者の約64%が65歳以上の高齢者である。近年,サルコペニアは外科手術後の予後不良因子であることが欧米で報告されているが,本邦における実態は明らかになっていない。本研究の目的は,食道がん患者のサルコペニアの罹患率を明らかにし,外科手術後の合併症への影響を明らかにすることである。


【方法】対象は,2011年6月から2015年4月までの間に,当院で食道がんに対して食道切除再建術を施行し,術前の評価が可能であった104例とした。サルコペニアの診断は,Asian Working Group for Sarcopeniaの基準に従い,筋肉量の低下(男性:骨格筋量指標<7.0kg/m2,女性:<5.7kg/m2)と身体機能の低下から診断した。筋肉量の測定には,多周波インピーダンス測定方式による体組成計DF-860(大和製衝)を用いた。身体機能の低下は,握力の低下(男性:<26kg,女性:<18kg)または歩行速度の低下(<0.8m/s)から判定した。術後合併症の定義は,米国胸部外科学会のガイドラインに準じ,術後30日以内に発生した呼吸器合併症と心血管系合併症とした。呼吸器合併症は,術後48時間以上の人口呼吸器装着,呼吸不全による再挿管,肺炎と定義した。心血管系合併症は,何らかの治療が必要な不整脈や虚血性心疾患などの心血管疾患と定義した。統計解析では,Studentのt検定とFisherの正確確率検定を用いて群間における単変量解析を行った。リスク因子(年齢,臨床病期,喫煙指数,%肺活量,一秒率,血清アルブミン値,手術時間,術中出血量,サルコペニア)と術後合併症との関連について単回帰分析を行い,単回帰分析でP値が0.10未満であった項目を独立変数とし,術後合併症を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。すべての検定において,有意水準は5%未満とした。


【結果】対象者の29例(27.9%)がサルコペニアと診断され,75例(72.1%)が非サルコペニアと診断された。サルコペニア群は,非サルコペニア群に比べて,有意に高齢(70.0±7.0歳vs. 65.7±7.1歳,P=0.006)で,臨床病期が進行した患者が多く(I/II/III/IV:4/5/13/7 vs. 17/27/28/3,P<0.001),呼吸機能(%肺活量:93.2±14.2% vs. 100.1±12.0%,P=0.02)と栄養状態(血清アルブミン値:3.7±0.7g/dl vs. 4.0±0.5g/dl,P=0.001)が低下していた。サルコペニア群では,術後呼吸器合併症の発生率が有意に高かった(37.9% vs. 17.3%,P=0.04)が,心血管系合併症の発生率には有意差を認めなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果,サルコペニア(オッズ比3.13,95%信頼区間1.12-8.93)と喫煙指数(>400,オッズ比3.46,95%信頼区間1.20-11.77)は,術後呼吸器合併症の独立した予測因子であった。


【結論】サルコペニアは,食道がんにおける術後呼吸器合併症の予測に有用であり,食道がんの術前検査としてサルコペニアの診断を行うことが推奨される。