第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本予防理学療法学会 一般演題口述
(予防)06

Fri. May 27, 2016 4:00 PM - 5:00 PM 第8会場 (札幌コンベンションセンター 2階 206)

座長:高倉保幸(埼玉医科大学 保健医療学部)

[O-YB-06-6] 乳癌腋窩リンパ節郭清術後の運動遅延プログラムはリンパ浮腫発症率低減には寄与しない

今野和美1, 山本優一1, 山本真代1, 笠原龍一1, 神保良平1, 渡邉紗耶加1, 小野部純2, 藤田貴昭3, 安田満彦4, 君島伊造4 (1.北福島医療センターリハビリテーション科, 2.東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科理学療法学専攻, 3.東北福祉大学健康科学部リハビリテーション学科作業療法学専攻, 4.北福島医療センター乳腺疾患センター)

Keywords:乳癌術後リハビリテーション, リンパ浮腫発症率, 運動プログラム

【はじめに】

がんのリハビリテーションガイドラインでは,乳がん術後の肩関節運動の開始時期を遅らせることで有害事象の発症率が低減することが示されている。当院では開設当初より術翌日から疼痛の許す範囲での可動域を許容するプログラムを運用し,リンパ浮腫予防教育にも力を入れてきたが,更なるリンパ浮腫発症率の低減を目指して術後早期に上肢の挙上を制限する(Delayed mobilisation以下DM)プログラムを試験導入した。本研究の目的は,当院で長らく運用してきた標準治療(Early mobilisation以下EM)群とDM群において術後一年後のリンパ浮腫発症率を比較検討することである。



【方法】

対象は当院において2009年に乳がんと診断され乳房切除+腋窩リンパ節郭清術を施行した37名(EM群)と,2012年に同様の手術を施行した59名(DM群)とした。EM群は術後1日目より強い疼痛が生じない範囲で挙上を開始した。DM群は術後7日間はリハビリ中及び日常生活において肩関節屈曲90度以下に可動を制限し,8日目より制限を解除した。

母集団の属性について,過去にリンパ浮腫発症の要因として報告のある項目(術式,リンパ節郭清範囲,SB排液量,BMI,術前化学療法,術後化学療法,ホルモン療法,放射線療法実施の有無)を収集した。

両群とも術前と術後1年後に両上肢の容積を周径値より算出し,フィッシャーの正確確率検定を用いて分析した。

リンパ浮腫発症の判断には先行研究で採用されている上肢容積の左右差の変化量を用い,先行研究と同様の200ml以上の増加を判断基準Iとし,当院の容積算出法の最小可検誤差である165ml以上の増加を判断基準IIとして検討した。



【結果】

各母集団における属性について,術前化学療法,術後化学療法で統計的な優位差を認めた。それ以外の項目では優位差を認めなかった。

判断基準Iにおけるリンパ浮腫発症率はEM群4名(10.8%),DM群5名(8.5%)であった。判断基準IIにおけるリンパ浮腫発症率はEM群5名(13.5%),DM群8名(13.6%)であった。いずれの判断基準においても統計学的な優位差は認められなかった。



【結論】

腋窩郭清を伴う乳がん術後患者のリンパ浮腫予防について,術後7日間の挙上制限プログラムは1年後のリンパ浮腫発症率に寄与しないと考えられた。