第51回日本理学療法学術大会

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一般演題口述

日本予防理学療法学会 一般演題口述
(予防)09

Sat. May 28, 2016 1:40 PM - 2:40 PM 第9会場 (札幌コンベンションセンター 2階 207)

座長:山田実(筑波大学大学院人間総合科学研究科)

[O-YB-09-2] 地域在住高齢者における下肢機能評価と要介護の新規発生

Five-Times-Sit-to-Stand TestとTimed Up & Go Testのカットオフ値

牧迫飛雄馬1, 島田裕之1, 土井剛彦1, 堤本広大1, 中窪翔1, 堀田亮1, 牧野圭太郎1, 鈴木隆雄2 (1.国立長寿医療研究センター, 2.桜美林大学加齢・発達研究所)

Keywords:介護予防, 要介護, 運動機能

【はじめに,目的】椅子の立ち座り動作で測定するFive-Times-Sit-to-Stand Test(FTSS)および3m歩行路によるTimed Up & Go Test(TUG)は簡便に実施でき,理学療法に関わる評価として汎用性が高い。これらは下肢機能の評価指標とされ,転倒リスクの抽出に有用とされている。しかし,将来の要介護発生リスクを抽出するためのカットオフ値は示されていない。本研究ではFTSSとTUGによって地域高齢者の要介護発生リスクを捉えることができるか,要介護リスクを抽出する適切なカットオフ値があるかを検証した。地域高齢者に対するFTSSとTUGの有用性を提示することが意義となる。

【方法】健診に参加した地域高齢者5104名のうち,パーキンソン病・脳卒中の既往者,既に要介護認定がある者,MMSE18点未満者,測定不可者,追跡中の死亡・市外転出者を除く4335名を対象とした。ベースラインでFTSSとTUGを測定した。FTSSは座面高45cmの椅子から5回連続の立ち座り動作の所要時間を計測した。TUGでは,椅子から立ち上がり,3m前方の目印まで通常速度で歩き方向転換し,再び椅子に座るまでの時間を測定した。ベースライン以降,1か月ごとの要介護認定情報を行政の介護保険担当課で照合し,2年間追跡した。追跡中での新規要介護発生者と未発生者でベースライン測定値を比較した。要介護発生に対するFTSSとTUGのカットオフ値を求め,Log-rank検定およびCox比例ハザード回帰分析を用いて要介護発生との関連を調べた。危険率5%未満を有意とした。

【結果】2年間で161名(3.7%)が新規に要介護を発生した。全対象者でのベースラインのFTSSは8.5±2.6秒,TUGは8.2±1.6秒であり,要介護発生者ではいずれも未発生者より有意に遅かった(p<.01)。要介護発生に対するカットオフ値はFTSSで10秒以上(感度49%,特異度78%),TUGで9秒以上(感度60%,特異度74%)であった。要介護発生率は,FTSS(≧10秒)・TUG(≧9秒)ともにカットオフ値よりも遅い群で最も高く(11.8%),FTSS・TUGともにカットオフ値より速い群(1.7%),FTSSのみ遅い群(4.3%),TUGのみ遅い群(5.8%)のいずれの群よりも有意に高い発生率であった(p<.01)。要介護発生に対するハザード比は,FTSS・TUGとも良好な群に比べて,FTSSのみ遅い群で1.9(95%信頼区間1.1-3.2),TUGのみ遅い群で2.2(1.4-3.5),FTSS・TUGともに遅い群で2. 8(1.8-4.3)であった(年齢,性,各疾患,服薬数,認知機能低下,うつ徴候で調整)。

【結論】FTSSとTUGでの下肢機能評価は,将来の要介護発生リスクを見出すための重要な指標となることが確認された。FTSSが10秒以上,TUGが9秒以上では要介護発生リスクが増大し,FTSSおよびTUGともこの基準よりも遅い場合,要介護発生リスクが約3倍となることが示唆された。本研究で将来の要介護発生リスクを抽出する具体的な測定値の候補が確認できたことは,一次予防推進を図る予防理学療法の発展に有益と考える。