第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本糖尿病理学療法学会 一般演題ポスター
糖尿P03

Sat. May 28, 2016 10:30 AM - 11:30 AM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-DM-03-4] 物体認識技術を用いた失明者のT2DMへの有酸素運動療法の動作獲得の経験

木村朗 (群馬パース大学)

Keywords:失明者, 物体認識, 有酸素運動

【はじめに,目的】

T2DMで失明した人等の覚醒時の身体活動量の維持は,喫緊の課題でありながら,相当な困難がある。日常生活活動とは別に,意識的な運動を加える必要があるが,失明者に新たな運動を獲得させる場合,非常に緩慢な動作であっても強い不安を訴える場合が多く,低強度であっても有酸素運動の獲得は困難かと思われた。

その中で,A県B地域の視覚障害者協会より,自己健康づくりへの運動指導支援と健康指標測定の依頼を受け,T2DMのある中途失明者1例の運動指導の依頼を受け,研究活動の一環として動作獲得を目指した。

本研究の目的は,物体認識技術を用いた失明者のT2DMへの有酸素運動療法の動作獲得の可否を明らかにすることであった。



【方法】

対象は,T2DMのある中途失明者1例,年齢75歳,16歳時両眼失明となり,65歳の健診で高血糖を指摘され,精査のうえT2DMと診断された。その後食事療法と薬物療法でHbA1Cが8%~12%(冬季に高値)で推移していた。肝機能およびTG,LDLコレステロールも異常値を示していた。運動指導はこれまで,歩くことを勧められてきたが,白杖を用いた歩行は障害物や車に阻まれ,連続した歩行にはなっていないということであった。スクワット動作やベッド柵を持ったもも上げ動作を指導したが,有酸素運動になるスピードが怖くて出せない状況にあった。

有酸素運動療法の動作獲得に対して,先行研究として「非視覚下動作遂行に伴って生起する不安感および交感神経機能の著しい亢進」を軽減する方法を試みており,この物体認識が可能なカメラと専用コンピュータを用いた鏡像的物体認識(object recognition)空間定位情報の触覚情報を用いる方法を補助的に用いて動作獲得を目指した。被験者の支持基底面上の位置,矢状面上の位置,前額面上の位置情報を表出し,不安感VASおよび自律神経系活動として心拍変動周波数解析(LF/HF)にて交感神経活動データを表出する。

動作の獲得の評価は,ランドマークの一致度を再現性の評価に用いた。有酸素運動域の強度の評価は動作終了後の心拍数と安静時心拍数の差を用いて行った。同システムにより,4Hzのテンポで30cm平方の台上で,スクワット様動作練習を2分間を1単位として,6か月間で合計6単位の練習を行った。



【結果】

同対象者は,動作の獲得が可能であった。わずか2単位実施後には,ランドマークの一致度を再現性は変動係数が10%以内となった。また,有酸素運動域の強度は最大心拍数の50%に達した。スピードの調整を伴う4Hzのテンポのスクワット様動作の遂行時に,心拍変動周波数(LF/HF)解析上著しい交感神経機能亢進の抑制効果がみられた。



【結論】

失明者のT2DMへの有酸素運動療法の動作獲得に物体認識技術を用いた場合,短時間の動作獲得成功例を認めた。今後,視覚機能低下のあるケースで運動療法獲得の実施可能性をもたらす技術として考えられる。