第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本理学療法教育学会 一般演題ポスター
教育P05

2016年5月28日(土) 10:30 〜 11:30 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-ED-05-3] 臨床経験による理学療法士のプロフェッショナリズム形成

島谷康司1, 井関茜2, 沖田一彦1, 甲田宗嗣3 (1.県立広島大学保健福祉学部理学療法学科, 2.医療法人社団朋和会西広島リハビリテーション病院リハビリ部, 3.広島都市学園大学健康科学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

キーワード:プロフェッショナリズム, 臨床実習経験, アンケート調査

【はじめに,目的】プロフェッショナリズム(以下,プロ)とは「仕事の編成あるいは仕事への志向の一形態,つまり固有の職業的活動への取り組み方ないしその遂行に関する共有の志向である。理学療法士(以下,PT)のプロは如何なるものなのか,それについての研究は乏しい。本研究では,臨床のPTのプロを調査し,その結果を学生と比較することで,臨床経験によるPTのプロの形成について考察する。



【方法】日本理学療法士協会が作成した倫理規定,職業倫理ガイドライン等を参考に,井関らが作成した46項目の質問項目を使用した。回答方法は5段階のリッカート尺度とした。対象は,卒後3~4年の臨床を経験した理学療法士を基準とし,広島県士会に所属する25歳以上のPTが,少なくとも1名以上勤務する413施設をピックアップして郵送した。アンケートは170部回収され(回収率41.2%),166名(有効回答率40.2%)を分析の対象とした。一方,理学療法学生は4年制大学理学療法学科に在籍する学生115名(長期実習経験群27名,長期実習未経験群88名)であった。統計処理は,Excel統計2010(SSRI社)のKruskal-Wallis検定(Steel-Dwassによる多重比較)を用いてすべての質問項目別のリッカート尺度の点数を,PTと学生間で比較した。有意水準は5%未満とした。



【結果】未経験群,経験群,PTの各項目の中央値と最頻値を算出した結果,分類1は,実習の経験に関わらずPTと学生で有意差が生じる項目,分類2は,経験群とPTとの間でのみ有意差が生じる項目,分類3は,未経験群とPTとの間でのみ有意差が生じる項目,に大別出来た。



【結論】今回,実習経験や臨床経験を経験する前後の母体間での有意差については,その経験によってプロフェッショナリズムが変化したと考え,この学習体系の存在を前提として考察する。分類1は,時間や労力,金銭の自己犠牲が求められる内容仕事として賃金を得ているPTが,学生よりもよりシビアに捉えている結果である。分類2は,医療事故の対応など,PTが経験群よりも高く評価した内容であり,経験群には事故に対する慣れが生じた可能性が考えられる。分類3は,臨床実習により十分に学習されたと解釈される項目で,PTは臨床現場に身を置くことで,能動的な学習の姿勢の必要性を高く評価するようになることが示唆された。また,PTが臨床を経験することで学生よりも医療者としての行動規範を高く評価し,各職場や施設での社会人研修や,社会生活で学ばれる社会人としての意識の変化と捉えることが出来る。

今回の結果より,実習生が臨床実習を経験し,PTが臨床現場に身を置くことで,生涯学習や能動的な学習の重要性などをプロとして高く評価するようになった項目が多く見受けられた。このことは,卒前・卒後教育の成果とも捉えられる,ポジティブな学習の存在を窺えさせた。