第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本理学療法教育学会 一般演題ポスター
教育P06

Sat. May 28, 2016 2:50 PM - 3:50 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-ED-06-2] 他者に対する共感能力は内受容感覚と自己優越感に影響されるか?

松尾篤1,2, 松村理加2, 青木美紗子2, 麻野紗也加2, 小西芹香2, 小林玲子2, 前岡浩1,2, 冷水誠1,2, 大住倫弘1, 森岡周1,2 (1.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター, 2.畿央大学健康科学部理学療法学科)

Keywords:共感能力, 内受容感覚, 自己優越感

【はじめに,目的】共感能力は,医療コミュニケーションにおいて重要な要素であり,自己と他者の関係性から育まれる。自己意識は,外受容感覚と内受容感覚を統合して形成される。外受容感覚は五感で形成される感覚であり,内受容感覚は自律神経系の支配の身体内部感覚を指し,空腹感や心拍などが該当する。一方で,自己優越感は誰もが持つ心の錯覚であり,知能や技能などについて自分は平均よりも優れていると感じることである。このような心の錯覚は,不確実で競争的な社会で有利に働くと言われている。この内受容感覚と自己優越感は,共感能力の神経基盤である前帯状皮質や島皮質と機能的に関連していることから,共感能力にも影響する可能性がある。本研究では,共感能力に対する内受容感覚と自己優越感の影響を性差の観点から検証した。

【方法】大学生204名(男性55名,女性149名,平均年齢18.4±1.1歳)を対象とし,最初に内受容感覚の測定のため心拍知覚能力を評価した。まず参加者自身で1分間の脈拍を測定し,その後脈を触れずに自身の心拍に注意を払い,心的に心拍をカウントするよう求めた。心的カウント数を実際の脈拍数で除算した値を心拍一致率(心拍知覚能力)とした。次に,自己優越感の評価では,「正直」,「誠実」といった肯定的用語,「不器用」,「無責任」といった否定的用語を10単語ずつ提示し,直線の中点に平均,右端が「上」,左端が「下」のVASで,対象者に自分の位置をマークさせた。20単語のVASの平均偏位率を算出し自己優越感とした。最後に,共感能力の評価は,アジア版Reading the Mind in the Eyes Test(RMET)と対人間知覚課題(IPT)を実施した。各測定項目の性差を対応のないt検定,共感能力と内受容感覚・自己優越感の関係をスピアマンの相関分析を実施した。

【結果】男性は女性に比べて心拍知覚能力(P=0.02),自己優越感(P=0.04)が有意に高値を示した。一方,女性はRMETが男性より高値を示した(P=0.03)。共感能力との関係性では,男性は内受容感覚が鋭敏なほど共感能力が高いという有意な正の相関関係(RMET:Spearman r=0.29,P=0.05,IPT:Spearman r=0.33,P=0.02)を示し,女性では自己優越感が高いほど共感能力が低いという有意な負の相関関係(RMET:Spearman r=-0.2,P=0.02,IPT:Spearman r=-0.22,P=0.009)を示した。

【結論】男性は内受容感覚である心拍知覚能力が鋭敏であり,自己の内的意識が高く,その自己理解によって他者に対する共感能力を形成している。女性は男性よりも共感能力が高いが,自己優越感が高くなると共感能力が低下することから,自己意識の過剰な高まりが他者理解に影響しやすいことが示唆された。卒前・卒後の理学療法教育において,コミュニケーションの基礎となる共感能力の涵養は重要であることから,マインドフルネスなどを応用した内受容感覚のトレーニングから自己意識および共感能力の向上が期待できる。