[P-ED-08-3] 療法士に起因する転倒転落事故に関連する要因の検討
―就労特徴に着目して―
キーワード:転倒転落, 療法士, 就労
【はじめに,目的】
リハビリテーションにおける患者の転倒転落事故(以下,転倒転落)は,療法士の不注意等で事故に至る事例があり,その背景には療法士個人が有する,事故に関連する要因があるものと考えられる。しかし,そのような調査は散見される程度であり,また個人の就労特徴に着目した検討は行われていない。そこで本研究では療法士に起因する転倒転落に関連する要因を,個人の就労特徴に着目し検討することを目的とした。
【方法】
療法士に起因する転倒転落は,2014年度のインシデント,アクシデント報告から内容を分類した。調査対象は,当院療法士(理学療法士,作業療法士,言語聴覚士)64名,個人の就労特徴を問う19項目のアンケート調査を行った。内容は,職種,年齢,勤続年数,通勤手段,通勤時間,出勤時刻,睡眠時間,始業までの間や昼休みの過ごし方,業務の課題・制約等である。回答は当該項目の有無,7件法によるリッカート方式で求めた。統計解析は各アンケート回答項目でのデータ分布から,各々二値型データへと加工し,療法士に起因する転倒転落の有無と,各項目間のクロス表分析(χ2検定)を行った。その後,転倒転落を目的変数とし,クロス表分析にてP値が0.1未満であった5項目を説明変数としたStepwise法によるロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とし,10%を有意傾向とした。
【結果】
転倒転落は37件あり,うち療法士に起因する事故は22件(59%)で,午前7件(31%),午後15件(68%)であった。質問紙回収数は60(回収率93%)であり,回答職種は,理学療法士37名,作業療法士15名,言語聴覚士8名,経験年数5.9±5.3年であった。クロス表分析の結果,転倒転落有群は無群に比べ,出勤時間が始業1時間~45分前までの者が多く(P<.05),29分~15分前までの者が少なかった(P<.05)。また,午前中に眠気を感じ(P<.10),スケジュール管理が困難(P<.10)で,残業が多い(P<.05)と感じている者が多かった。ロジスティック回帰分析では,転倒転落への独立関連要因は,始業29分~15分前でオッズ比0.08(95%CI:.01-0.54)(P<.01),午前中に眠気を感じることでオッズ比6.07(95%CI:1.05-34.96)(P<.05)であった(判別的中率70.6%)。
【結論】
午後に療法士の不注意等で引き起こされた転倒転落が多く(68%),その転倒転落の予測要因は,療法士の経験年数ではなく,他の就労特徴が示された。出勤時間が始業29分~15分前である事は,転倒転落と負の関連を示し,これは業務開始への適切な余裕と業務効率を考慮する必要性を示唆している。また一方で,午前中に眠気を感じている事は転倒転落と正の関連を示し,これは午前に眠気を感じ注意散漫になる為,午後に多い転倒転落の発生に関連していると考える。今後は経験年数を問わず,継続的な医療安全教育と,効率的な業務の見直しや役割分担を行う必要があると考える。
リハビリテーションにおける患者の転倒転落事故(以下,転倒転落)は,療法士の不注意等で事故に至る事例があり,その背景には療法士個人が有する,事故に関連する要因があるものと考えられる。しかし,そのような調査は散見される程度であり,また個人の就労特徴に着目した検討は行われていない。そこで本研究では療法士に起因する転倒転落に関連する要因を,個人の就労特徴に着目し検討することを目的とした。
【方法】
療法士に起因する転倒転落は,2014年度のインシデント,アクシデント報告から内容を分類した。調査対象は,当院療法士(理学療法士,作業療法士,言語聴覚士)64名,個人の就労特徴を問う19項目のアンケート調査を行った。内容は,職種,年齢,勤続年数,通勤手段,通勤時間,出勤時刻,睡眠時間,始業までの間や昼休みの過ごし方,業務の課題・制約等である。回答は当該項目の有無,7件法によるリッカート方式で求めた。統計解析は各アンケート回答項目でのデータ分布から,各々二値型データへと加工し,療法士に起因する転倒転落の有無と,各項目間のクロス表分析(χ2検定)を行った。その後,転倒転落を目的変数とし,クロス表分析にてP値が0.1未満であった5項目を説明変数としたStepwise法によるロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とし,10%を有意傾向とした。
【結果】
転倒転落は37件あり,うち療法士に起因する事故は22件(59%)で,午前7件(31%),午後15件(68%)であった。質問紙回収数は60(回収率93%)であり,回答職種は,理学療法士37名,作業療法士15名,言語聴覚士8名,経験年数5.9±5.3年であった。クロス表分析の結果,転倒転落有群は無群に比べ,出勤時間が始業1時間~45分前までの者が多く(P<.05),29分~15分前までの者が少なかった(P<.05)。また,午前中に眠気を感じ(P<.10),スケジュール管理が困難(P<.10)で,残業が多い(P<.05)と感じている者が多かった。ロジスティック回帰分析では,転倒転落への独立関連要因は,始業29分~15分前でオッズ比0.08(95%CI:.01-0.54)(P<.01),午前中に眠気を感じることでオッズ比6.07(95%CI:1.05-34.96)(P<.05)であった(判別的中率70.6%)。
【結論】
午後に療法士の不注意等で引き起こされた転倒転落が多く(68%),その転倒転落の予測要因は,療法士の経験年数ではなく,他の就労特徴が示された。出勤時間が始業29分~15分前である事は,転倒転落と負の関連を示し,これは業務開始への適切な余裕と業務効率を考慮する必要性を示唆している。また一方で,午前中に眠気を感じている事は転倒転落と正の関連を示し,これは午前に眠気を感じ注意散漫になる為,午後に多い転倒転落の発生に関連していると考える。今後は経験年数を問わず,継続的な医療安全教育と,効率的な業務の見直しや役割分担を行う必要があると考える。