第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本心血管理学療法学会 一般演題ポスター
心血管P04

2016年5月28日(土) 11:40 〜 12:40 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-HT-04-4] 入院期慢性心不全患者における下肢筋力水準の差異が下肢筋力の改善に与える影響

笠原酉介1, 井澤和大2, 渡辺敏3, 吉沢和也1, 根本慎司1, 松嶋真哉1, 大宮一人4 (1.聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院リハビリテーション部, 2.神戸大学大学院保健学研究科国際保健学領域, 3.聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部, 4.聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院循環器内科)

キーワード:心不全, 運動療法, 下肢筋力

【はじめに,目的】

近年,入院期の慢性心不全患者(CHF)に対する運動療法が生命予後の改善に効果があり,その重要性が明らかにされつつある。運動療法の効果の一つとして骨格筋機能の改善が挙げられる。しかし,開始時の下肢筋力水準の差異が下肢筋力の改善に与える影響については不明である。本研究では,運動療法開始時の下肢筋力水準の差異が,下肢筋力の改善効果に与える影響について明らかにすることである。


【方法】

研究デザインは後ろ向きコホート研究である。対象は,2011年6月から2014年6月までにCHFの増悪で入院加療となり,理学療法依頼のあったCHF患者連続症例のうち,取り込み,除外基準を満たした123症例である(76.7±11.4歳)。対象者は,当院の心臓リハビリテーションプログラムに準じて活動範囲の拡大を行い,加えて自覚的運動強度(Borg scale 11から13程度)を負荷強度の基準とした,軽負荷による下肢のレジスタンストレーニングを実施した。

我々は,診療録より臨床背景を後方視的に調査した。また,車椅子座位による離床獲得時と退院時に下肢筋力として等尺性膝伸展筋力を測定し(KEP),体重で除した値(%KEP)を下肢筋力水準として算出した。

対象者は,離床獲得時の%KEPの高低により2群(高値群および低値群)に分類された。%KEPの高低を判別する基準は,心大血管疾患患者の退院時の年代および性別ごとの平均値-1標準偏差(森尾ら,2009)とした。

統計学的手法として,我々は,SPSS ver.12.0Jを用い,2群間の比較には対応のないt検定を,また,各群と測定時期を2要因とする混合計画の2元配置分散分析によるKEPの比較をそれぞれ行なった。さらに,離床獲得時と退院時のKEPの比較には対応のあるt検定を用いた。統計学的有意水準は5%未満である。


【結果】

高値群(62例)と低値群(61例)の比較では,低値群の入院時BNPは高値群に比し高く(1083.8±1081.3 vs. 733.0±563.6 pg/mL,P=0.027),低値群のトイレ歩行獲得までの日数は高値群に比し延長していた(8.1±7.1 vs. 5.8±4.7日,P=0.005)。また,2元配置分散分析の結果,有意な交互作用を認めた(F=6.42,P=0.013)。対応のあるt検定の結果,高値群および低値群ともに離床獲得時に比し退院時にてKEPの改善を認めた(高値群:21.2±6.9 vs. 23.3±7.7 kgf,P<0.001,低値群:18.0±8.4 vs. 21.3±8.9 kgf,P<0.001)。さらに,KEPの改善率は,高値群で10.0±11.1%,低値群で24.2±26.9%と両群で差を認めた(P<0.001)。


【結論】

入院期CHF患者では,運動療法により下肢筋力水準の高低に関わらず,下肢筋力の改善が認められた。一方,その変化の程度には,離床獲得時の下肢筋力水準が影響していることが明らかとなった。以上より,開始時の下肢筋力水準が低い症例では,より大きな筋力の改善が得られるものと考えられた。