[P-HT-04-6] 入院期高齢心不全患者における退院後の手段的日常生活活動能力を制限する因子の検討
Keywords:手段的日常生活活動動作, 心不全, 高齢
【はじめに,目的】
心不全増悪のため入院加療を要した高齢患者の多くは,退院後の手段的日常生活活動(instrumental activities of daily living:IADL)が制限される。地域在住高齢者では,IADLは年齢,性別,認知機能および身体機能といった因子の影響を受けることが知られているが,高齢心不全患者では多臓器障害を併発している可能性があり,IADLの制限因子について検討する際にはその影響も考慮する必要がある。そこで,本研究は高齢心不全患者における退院後のIADLを制限する因子について検証することを目的とした。
【方法】
対象は,2008年から2015年に心不全増悪で入院し,心臓リハビリテーション(心リハ)が施行された65歳以上の心不全患者395例(74.1±6.1歳,男264例)とし,維持血液透析を受けていた者,基本的日常生活活動に介助を要した者および退院後3か月以内に再入院あるいは死亡した者は除外した。退院時に臨床的背景因子として年齢,性別,体格(body mass index),心不全の原疾患,併存疾患(運動器疾患,脳血管疾患,認知症,貧血,慢性腎臓病),心機能(左室駆出率),脳性ナトリウム利尿ペプチド,栄養状態(geriatric nutritional risk index)および入院日数を調査し,社会的背景因子として独居か否かおよびキーパーソンの有無を調査した。また,身体機能の指標として筋力(最大等尺性膝伸展筋力),バランス機能(片脚立位時間),運動耐容能(6分間歩行距離)を測定した。IADLの指標にはfrenchay activities index(FAI)を採用し,退院後3ヵ月経過時に調査した。年齢,性別に応じたFAIの標準値(蜂須賀研二,他 2001)を上回った場合をIADL非低下群,下回った場合をIADL低下群と定義した。IADLを制限する因子について検証するために,FAIの得点が標準値を下回るか否かを従属変数とし,臨床的背景因子,社会的背景因子および身体機能を独立変数とした強制投入法による多重ロジスティック回帰分析を行った。解析にはSPSS25.0J for Windowsを使用し,危険率5%未満を有意とした。
【結果】
対象者のうち174例がIADL非低下群,219例がIADL低下群に分類された。多重ロジスティック回帰分析の結果,認知症の合併(オッズ比:1.35,95%信頼区間:1.06-1.98,P<0.05),貧血の合併(オッズ比:2.06,95%信頼区間:1.25-3.39,P<0.01),慢性腎臓病の合併(オッズ比:1.11信頼区間:1.03-1.26,P<0.05)および6分間歩行距離の低下(オッズ比:1.11,95%信頼区間:1.08-1.14,P<0.01)がFAI得点を低下させる独立した制限因子であった。
【結論】
高齢心不全患者において,認知症,貧血,慢性腎臓病の合併に加え,退院時の6分間歩行距離の低下は退院後のIADLを制限する因子であることが明らかとなった。高齢心不全患者においては,生命予後のみならずIADLは重要なアウトカムであり,その制限因子を明らかにしたことは心リハを施行する上で有益な情報となり得る。
心不全増悪のため入院加療を要した高齢患者の多くは,退院後の手段的日常生活活動(instrumental activities of daily living:IADL)が制限される。地域在住高齢者では,IADLは年齢,性別,認知機能および身体機能といった因子の影響を受けることが知られているが,高齢心不全患者では多臓器障害を併発している可能性があり,IADLの制限因子について検討する際にはその影響も考慮する必要がある。そこで,本研究は高齢心不全患者における退院後のIADLを制限する因子について検証することを目的とした。
【方法】
対象は,2008年から2015年に心不全増悪で入院し,心臓リハビリテーション(心リハ)が施行された65歳以上の心不全患者395例(74.1±6.1歳,男264例)とし,維持血液透析を受けていた者,基本的日常生活活動に介助を要した者および退院後3か月以内に再入院あるいは死亡した者は除外した。退院時に臨床的背景因子として年齢,性別,体格(body mass index),心不全の原疾患,併存疾患(運動器疾患,脳血管疾患,認知症,貧血,慢性腎臓病),心機能(左室駆出率),脳性ナトリウム利尿ペプチド,栄養状態(geriatric nutritional risk index)および入院日数を調査し,社会的背景因子として独居か否かおよびキーパーソンの有無を調査した。また,身体機能の指標として筋力(最大等尺性膝伸展筋力),バランス機能(片脚立位時間),運動耐容能(6分間歩行距離)を測定した。IADLの指標にはfrenchay activities index(FAI)を採用し,退院後3ヵ月経過時に調査した。年齢,性別に応じたFAIの標準値(蜂須賀研二,他 2001)を上回った場合をIADL非低下群,下回った場合をIADL低下群と定義した。IADLを制限する因子について検証するために,FAIの得点が標準値を下回るか否かを従属変数とし,臨床的背景因子,社会的背景因子および身体機能を独立変数とした強制投入法による多重ロジスティック回帰分析を行った。解析にはSPSS25.0J for Windowsを使用し,危険率5%未満を有意とした。
【結果】
対象者のうち174例がIADL非低下群,219例がIADL低下群に分類された。多重ロジスティック回帰分析の結果,認知症の合併(オッズ比:1.35,95%信頼区間:1.06-1.98,P<0.05),貧血の合併(オッズ比:2.06,95%信頼区間:1.25-3.39,P<0.01),慢性腎臓病の合併(オッズ比:1.11信頼区間:1.03-1.26,P<0.05)および6分間歩行距離の低下(オッズ比:1.11,95%信頼区間:1.08-1.14,P<0.01)がFAI得点を低下させる独立した制限因子であった。
【結論】
高齢心不全患者において,認知症,貧血,慢性腎臓病の合併に加え,退院時の6分間歩行距離の低下は退院後のIADLを制限する因子であることが明らかとなった。高齢心不全患者においては,生命予後のみならずIADLは重要なアウトカムであり,その制限因子を明らかにしたことは心リハを施行する上で有益な情報となり得る。