第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本心血管理学療法学会 一般演題ポスター
心血管P07

Sun. May 29, 2016 10:00 AM - 11:00 AM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-HT-07-2] 悪性リンパ腫脊髄浸潤による歩行障害症例の1年以上の経過について

青木利彦1, 菅原浩之2, 中村慎也1, 秋野賢一1, 高森宣行1, 寿良太1, 齋藤佐知子1, 三好祐之1, 樋川正直1, 渋谷高明3, 大澤傑4 (1.住友病院リハビリテーション科, 2.住友病院血液内科, 3.住友病院整形外科, 4.大阪行岡医療大学)

Keywords:悪性リンパ腫脊髄浸潤, 歩行障害, 長期経過

【はじめに,目的】悪性リンパ腫の中枢神経への浸潤は,非ホジキンリンパ腫で1~2%の頻度と報告されており,脊髄限局は希な病態といえる。臨床症状は進行性の筋力低下や感覚障害による歩行障害を呈し,好発年齢も60歳以下と若いことも報告されている。治療は長期にわたる化学療法や放射線療法のため骨髄抑制による行動抑制も加わると廃用症候群をおこしやすい。そのため,就労年齢では復職への影響が大きな病態であり理学療法の対象になりやすい特性がある。しかし本疾患による歩行障害やADLに関する経過報告は少なく,社会復帰へ向けた目標設定の指標が少ない現状がある。今回,悪性リンパ腫脊髄浸潤により歩行不能となり,発症後1年以上経過した症例の歩行能力とADL経過について検討したので報告する。

【方法】平成22年から平成27年までに悪性リンパ腫脊髄浸潤で当科に紹介された5例のうち,1年以上の経過観察が可能であった3例(男性2例,女性1例)を対象とした。平均年齢は54才(52-55),入院期間は平均5.3ヶ月(2-7),追跡期間は発症から平均20.7ヶ月(12-27)であった。評価は歩行能力を歩行速度とTUG,ADLはFIM運動項目を用いて行った。

【結果】3例ともリハ開始時は体幹下肢の深部感覚障害を認め,歩行不能であった。治療は化学療法,放射線療法となり,理学療法は協調性練習主体として,入院1週間以内に開始した。リスク管理は「がん患者におけるリハビリテーションの中止基準」を参考に,感染対策,貧血,易出血傾向に対して実施環境と運動負荷量を調整して実施した。退院後は毎日30分程度の歩行,協調性練習を自主練習として,1回/月の通院頻度で経過観察を行った。歩行速度は退院時の平均で48.9m/分(40.5-61.2)であり日本人平均値とされる82m/分より低値であったが,最終評価時は70.8 m/分(60.7-86.5)と平均値程度へ回復が得られた。またTUGは退院時12.9秒(10.2-15.6)と症例1のみ超過していたが,平均値では転倒カットオフ値とされる14秒以下であった。最終評価時には7.8秒(6.0-9.8)と全例でカットオフ値を下回る回復が得られた。FIM運動項目は初期評価時43点,退院時85点,最終評価時で91点であり,項目別にみると,セルフケアの問題は少なく,移乗・移動で低くなる傾向がみられた。退院時は全例杖歩行が自立し,退院3ヶ月以内に独歩能力,及び家事職を含めた復職に至った。また1年以上経過した最終評価時では,3例とも深部感覚障害が残存したが,感覚障害の改善や代償動作の獲得により独歩能力は維持できていた。

【結論】全例に共通し深部感覚障害による歩行障害が主問題であった。適切なリスク管理により廃用性症候群を回避できたことで,主科治療終了時に杖歩行可能となったと考えられた。発症から1年経過しても感覚障害は残るが,杖歩行で退院が可能となり,自主練習を継続した場合は退院3ヶ月以内に独歩能力の獲得と復職へできる可能性が示唆された。