第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P01

Fri. May 27, 2016 11:50 AM - 12:50 PM 第10会場 (産業振興センター 2階 セミナールームB)

[P-KS-01-3] 無呼吸時の脳組織酸素飽和度と経皮的動脈血酸素飽和度の比較検討

―健常若年者息止め課題での負荷時間による影響―

光吉俊之1, 辻内名央1, 菊地萌1, 久保洋平1, 堀竜次2 (1.星ヶ丘医療センター, 2.大阪行岡医療大学)

Keywords:無呼吸, 脳組織酸素飽和度, 経皮的動脈血酸素飽和度

【はじめに,目的】

急性期の脳卒中患者において,動脈血酸素飽和度の継続的なモニタリングが重要であることが報告されている(Sulter, 2000)。重症脳血管損傷患者では呼吸中枢の障害や,舌根沈下等による上気道閉塞により無呼吸を呈する症例が多く,モニタリングの重要性が大きい。無呼吸の時間が延長するほど脳組織は低酸素状態となり,離床に影響を与えることが推測される。現在,臨床現場ではパルスオキシメータを用いた経皮的動脈血酸素飽和度(以下SpO2)を指標として離床が進められている。しかし,循環動態が不安定な症例では末梢循環不全によりSpO2による測定が不安定で,実際の脳組織酸素飽和度をSpO2から評価することが出来るかは不明瞭である。よって,本研究では健常若年者において無呼吸を想定した息止め課題を実施し,息止めの負荷時間が脳組織酸素飽和度とSpO2に与える影響を比較検討した。

【方法】

対象は健常若年者9名(男性6名,女性3名,平均年齢±標準偏差:25.4±2.8)。測定は背臥位にて実施した。5分間の安静後,課題として40秒間の息止め時間と40秒間の呼吸時間を交互に3回繰り返す条件(40秒条件)と,30秒間の息止め時間と40秒間の呼吸時間を交互に3回繰り返す条件(30秒条件)を行った。脳組織酸素飽和度の測定には赤外線酸素モニタ装置(NIRO-200NX,浜松ホトニクス社製)を使用した。2本のプローブの配置は国際10-20法よりFp1,Fp2に貼附し,測定項目として組織酸素飽和度(Tissue oxygenation index,以下TOI:%)を測定した。同時にパルスオキシメータによりSpO2の測定も行った。データはサンプリング周波数0.5Hzで取り込んだ。データ解析は40秒条件と30秒条件のSpO2とTOIの変化量(=最大値-最小値)を算出し,Pearsonの積算相関係数を用いて相関を検定した。有意水準は5%とした。

【結果】

40秒条件において,SpO2とTOIの変化量はΔSpO2:5.78±4.29%,ΔTOI:5.57±2.09%であった。40秒条件ではSpO2とTOIの変化量の間には強い相関が認められた(r=0.92,p<0.05)。一方,30秒条件において,SpO2とTOIの変化量はΔSpO2:4.00±2.00%,ΔTOI:4.46±1.51%であった。30秒条件ではSpO2とTOIの変化量の間には相関は認められなかった(r=0.066,p>0.05)。

【結論】

Zweifel(2010)らによると,NIROは皮膚血流,頭蓋骨や髄液の影響を排除して脳組織酸素飽和度が測定できると報告している。40秒条件ではSpO2とTOIの変化量に相関が認められたことから,パルスオキシメータにより脳組織酸素飽和度の変化を捉えることが可能と考える。一方,30秒条件ではSpO2とTOIの変化量に相関が認められなかった。これは同じ息止め課題でも負荷時間が短いとパルスオキシメータではNIROで測定し得るわずかな変化を捉えることが出来ない為と考えられる。よって,無呼吸を伴う重症脳卒中患者の離床時にはリスク管理上,パルスオキシメータよりも敏感に変化を捉えることのできるNIROが有効であると思われる。