第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P04

Fri. May 27, 2016 11:50 AM - 12:50 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-04-2] 股関節疾患患者にみられる関連痛の発生機序解明にむけた関節枝の分布状況に関する肉眼解剖学的検討

坂本淳哉1, 真鍋義孝2, 弦本敏行3, 本田祐一郎4, 片岡英樹5, 中野治郎1, 沖田実1 (1.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科運動障害リハビリテーション学研究室, 2.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科顎顔面解剖学分野, 3.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科肉眼解剖学分野, 4.長崎大学病院リハビリテーション部, 5.社会医療法人長崎記念病院リハビリテーション部)

Keywords:肉眼解剖学, 関連痛, 関節枝

【はじめに,目的】股関節疾患患者では患部を起源とした関連痛が膝関節前面にみられることが多く,その発生機序の仮説の一つとして二分軸索感覚ニューロンの関与が考えられているが,この点に関する解剖学的な根拠はこれまでに十分に示されていない。一般に,股関節および膝関節前面の知覚は大腿神経ならびに閉鎖神経から分岐する関節枝が支配するとされているが,これらの関節枝の分布状況を同時に検討した報告はこれまでになく,前述したような関連痛の発生機序を明らかにするためには股関節枝と膝関節枝の分布状況を同時に検討する必要がある。そこで,本研究では日本人遺体における大腿神経ならびに閉鎖神経から分岐する股関節枝および膝関節枝の分布状況について検討した。

【方法】対象は平成24年度ならびに平成26年度に所属大学の歯学部人体解剖学実習に供された日本人遺体9体9肢(男性5体,女性4体,右側1肢,左側8肢)で,各遺体における大腿神経および閉鎖神経から分岐する股関節枝と膝関節枝を剖出・観察した。なお,観察は所属大学内の定められた解剖学実習室でのみ行い,実習室の管理者の管理・指導のもと,礼意を失わないように実施した。

【結果】大腿神経から分岐する股関節枝には①恥骨筋枝から分岐して前内側に達する枝(4肢,44.4%),②腸骨筋枝から分岐して前外側に達する枝(3肢,33.3%)が認められ,閉鎖神経から分岐する股関節枝には①前枝から分岐して股関節前内側に達する枝(3肢,33.3%),②後枝から分岐して股関節前内側に達する枝(2肢,22.2%)が認められた。一方,大腿神経から分岐する膝関節枝には①内転筋管内を下行した後に膝蓋骨内側に達する枝(2肢,22.2%),②内側広筋枝から分岐して膝蓋骨内側に達する枝(5肢,55.6%),③膝関節筋枝から分岐して膝蓋上包に達する枝(6肢,66.7%),④外側広筋枝から分岐して膝蓋骨外側に達する枝(1肢,11.1%)が認められた。また,閉鎖神経から分岐する膝関節枝は前枝から分岐して伏在神経と併走して膝蓋骨下内方に達する枝(1肢,11.1%)が認められた。加えて,各遺体における分布状況を検討したところ,大腿神経の恥骨筋枝から分岐して股関節前内側に達する枝と内側広筋を貫通して膝関節前内側に達する枝を同時にもつ所見が3体で認められた。

【結論】以上の結果から,股関節および膝関節の前面は主に大腿神経から分岐する関節枝により支配されることが明らかになった。そして,先行研究を参考にすると,股関節および膝関節の前内側を大腿神経が同時に支配している所見は両関節を支配する二分軸索感覚ニューロンの存在を示す肉眼解剖学的所見とも考えられ,股関節を起源とした膝関節の痛みの発生に関与している可能性が推察される。