第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P05

Fri. May 27, 2016 11:50 AM - 12:50 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-05-2] 温熱刺激と寒冷刺激が末梢神経再生に及ぼす影響

鈴木あゆみ1,2, 堂野牧人3, 荒川高光2, 三木明徳2 (1.有馬温泉病院総合リハビリテーション室, 2.神戸大学大学院保健学研究科, 3.神戸赤十字病院リハビリテーション科部)

Keywords:温熱刺激, 寒冷刺激, 末梢神経再生

【はじめに,目的】これまで我々の研究室では,骨格筋損傷直後に与えた温熱刺激や寒冷刺激が筋の再生に及ぼす影響を検討してきた。損傷直後の寒冷刺激は二次変性やマクロファージの遊走を遅らせ,筋の再生も遅延した(Takagi, et al., 2011)。一方,損傷直後の温熱刺激は筋の再生を促進した(Takeuchi, et al., 2014;Hatade, et al., 2014)。筋が損傷されると,同時に支配神経も損傷される場合が多いと言われており,筋の機能回復は筋の再生だけでなく,支配神経の再生も重要である。しかし,損傷直後に与えた温熱刺激や寒冷刺激が末梢神経の再生に及ぼす影響はまだ十分に調べられてはいない。よって,本研究ではその影響を組織学的に観察した。




【方法】10週齢の雄性ddyマウスを対照群,温熱群,寒冷群の3群に分類した。これらの動物を麻酔下で左後肢外側面に皮膚切開を加えて坐骨神経を露出し,大腿中央部より少し近位で坐骨神経を切断した。皮膚縫合後,温熱群と寒冷群に坐骨神経切断5分後から20分間,42℃のホットパックあるいはアイスパックを神経切断周囲部の皮膚に当てた。損傷後6・12時間及び1・2・3・5・7日に断端より近位約1cmの坐骨神経を麻酔下で摘出し,トルイジンブルー染色を用いて形態学的に観察した。またNFH,S100,ED1を用いてそれぞれニューロフィラメント,シュワン細胞,マクロファージの動態を免疫組織化学的に観察した。3群間の比較には二元配置分散分析を用いた。




【結果】対照群では切断6時間後に,断端付近に髄鞘内が空洞化した有髄線維を認め,切断1日後に髄鞘の外側に再生神経を確認した。そして,切断7日後には断端付近に小さな神経腫を形成した。温熱群は切断12時間後で再生神経を認め,切断5日後で神経腫を観察した。一方,寒冷群は切断2日後でようやく再生神経を認め,切断7日後でも神経腫は観察されなかった。ED1陽性のマクロファージは,切断1日後まで3群間で有意差はなかったが,温熱群では髄鞘変性を明瞭に認めるようになった切断2日後において,対照群や寒冷群に比べ有意に多く観察され,その後3群とも増加傾向を示した。しかし,切断7日後でも温熱群は他の2群に比べ有意に高値を示した。なお対照群と寒冷群の2群間に有意差は認めなかった。髄鞘変性は対照群で切断3日後,寒冷群で5日後に認め,S100陽性のシュワン細胞は温熱群で他の2群に比べ早期に出現する傾向を示した。




【結論】今回,温熱群で二次変性やマクロファージの遊走,再生神経が対照群より早くから観察され,寒冷群で遅延していた。シュワン細胞はマクロファージなどの炎症性細胞を誘導し,神経再生に必要な種々の成長因子を分泌すると言われており,温熱刺激は髄鞘変性を促進することで末梢神経の再生を促進する可能性が示唆された。しかし,温熱療法を臨床適用するにあたっては,その他の様々な影響をさらに詳細に検討する必要がある。