第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P06

Fri. May 27, 2016 4:30 PM - 5:30 PM 第10会場 (産業振興センター 2階 セミナールームB)

[P-KS-06-4] 付加的課題を課した立ち上がり動作時の関節角度の協調性

井原拓哉1,2, 中野達也1, 羽田清貴1,3, 高橋真4,5, 阿南雅也4,5, 新小田幸一4,5, 川嶌眞之1, 川嶌眞人1 (1.川嶌整形外科病院, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究科博士課程後期, 3.九州看護福祉大学大学院看護福祉学研究科健康支援科学専攻, 4.広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門, 5.広島大学大学院医歯薬保健学研究科附属先駆的リハビリテーション実践支援センター)

Keywords:二重課題, 立ち上がり動作, UCM解析

【はじめに,目的】

椅子からの立ち上がり動作は頻繁に行われる動作の1つであり,転倒発生の機転となることも少なくない。近年,転倒の要因の中でも二重課題への対応能力の低下が,高齢者の転倒発生に関連しているとの報告が散見される。非制御多様体解析法(Uncontrolled Manifold解析:以下,UCM解析)は,課題に対する「部分」の変動が課題達成のために「課題特異的」に協調している要素であるかを判定でき,身体の協調性という観点から二重課題への対応能力を定量化できる。そこで本研究は,健常成人を対象に,立ち上がり動作における二重課題負荷による身体協調性の変化を調査することで,二重課題に直面した高齢者に発生する転倒原因の解明のための一助とすることを目的に実施した。

【方法】

対象は健常成人女性16人(平均年齢30.9±8.3歳)であった。課題動作は片手でコップを把持した状態での椅子からの立ち上がり動作を採用した。水で一杯に満たされた蓋のないコップをもつ蓋無し条件と,同じ質量となるよう水を入れ蓋をした蓋有り条件の2条件で行った。条件の順序は無作為とし,各条件とも5回試行した。動作中の身体各標点座標を取得し,数値解析ソフトウェアMATLAB 2014a(MathWorks社製)を用いてUCM解析を実施した。UCM解析では,要素変数として身体各関節と足部の角度変化を,タスク変数として身体重心(Center of Mass:以下,COM)座標と第3中手骨頭座標および手関節角度の変化を用いた。そして課題達成に影響を及ぼさない良い変動(以下,VUCM)と影響を及ぼす悪い変動(以下,VORT)を算出した。体幹セグメントの角速度の変化を基に動作の開始と終了を定義し,100%に時間正規化した後,10%毎の平均値を算出した。2条件のVUCM,VORTの比較には,二元配置分散分析を実施した。統計学的解析にはDr. SPSS II for Windows 11.0.1 J(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,有意水準は5%未満とした。なお本研究は公益財団法人総合健康推進財団の助成を得て行った。

【結果】

VUCMとVORTの比較では,両条件で全てのタスク変数に対しVUCMが高値を示した。両条件間の比較では,全てのタスク変数に対するVUCMが動作の0~20%で蓋有り条件が有意に高値を示した。VORTは,COM座標の鉛直方向の20~40%,および第3中手骨頭座標の前後方向の0~20%と鉛直方向の20~40%と80~90%,手関節角度の10~40%と90~100%で蓋有り条件が有意に高値を示した。

【結論】

水をこぼさないという課題が注意資源を分散させるため,各タスクに対する良い変動が減少したが,課題達成のために悪い変動も同時に減少させながら課題を達成していることが示された。特に手関節角度に対する悪い変動が動作中は低値を示しており,コップの角度に対する注意が増していると考えられた。高齢者のように身体機能が低下した場合,注意の分散に伴う身体の協調性の低下が転倒を引き起こす可能性があると推察された。