第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P08

Fri. May 27, 2016 4:30 PM - 5:30 PM 第11会場 (産業振興センター 2階 セミナールームA)

[P-KS-08-5] 一側下肢の運動学習に伴う質脊髄路興奮性の変化と,対側下肢へ及ぼすパフォーマンスの影響

大澤竜司1, 立本将士1, 土屋順子2, 沼田純希1, 田辺茂雄3, 鈴木智高1, 菅原憲一1 (1.神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科, 2.信州大学大学院医学系研究科, 3.藤田保健衛生大学リハビリテーション学科)

Keywords:学習転移, TMS, トラッキング課題

【はじめに,目的】

一側肢のトレーニングによる学習効果が,非トレーニング肢に影響を及ぼす現象は「学習転移」と呼ばれ,その検証は多様な研究分野において行われている。近年では学習転移をもたらす神経生理学的メカニズムとして,学習を伴った両側大脳皮質運動野の相補的な興奮性変化の存在が示されている。しかし,この事象に関する先行研究の多くは上肢を対象としており,下肢を対象にそのメカニズムを検証した研究は少ない。本研究の目的は経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いて,一側下肢運動学習に伴う両側皮質脊髄路興奮性の変化と,非練習側下肢へ及ぼすパフォーマンスの影響を明らかにする事である。

【方法】

対象は健常成人8名(平均年齢21.1歳)とした。学習課題は画面に表示した基準線を足関節背屈の張力を示すマーカーで追随するトラッキング課題とした。なお,この基準線は直線的に緩徐に上昇するランプ形態とした。この課題を右足にて50回反復練習を行った。学習の評価として,基準線及びマーカーを消失した状態で学習課題と同様の課題を実施し,基準線との誤差面積の大きさ(RMS)を左右足毎に右足練習前後で計測した。被検筋は,右前脛骨筋(TA),左TAとし,課題施行中の同側足関節からTMSによる運動誘発電位(MEP)を記録した。TMSのタイミングは基準線が頂点に到達する1/3時点と2/3時点の2つの時点で10回ずつ施行した。1/3,2/3時点はそれぞれ足関節最大背屈筋収縮(MVC)の10%と20%に相当する時点とした。また,コントロールMEPとして実験の始めに10%MVC,20%MVC保持時のMEPをそれぞれ10回ずつ計測した。統計解析は練習に伴うパフォーマンス変化に対して,対応のあるt検定を用いて左右側毎に右足練習前後での誤差RMS値を比較した。皮質脊髄路興奮性の変化として課題試行中のMEP振幅比(課題試行中MEP/コントロールMEP)を算出し,対応のあるt検定を用いて練習前後のMEP振幅比の差を左右側毎に比較を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。

【結果】

右足関節では練習前と比較し練習後で誤差RMS値の有意な減少(p=0.012)を認めた。一方,左足関節では右足練習前後で誤差RMS値に有意な変化を認めなかった(p=0.969)。MEP変化は,右TA10%MVC時点にて練習前に比べ練習後で有意なMEPの減少(p=0.049)を認めた。また,左TA10%MVC時点においても右足の練習前後で有意なMEPの減少(p=0.004)を認めた。

【結論】

今回用いた課題では非練習側へのパフォーマンスの転移は認められなかった。しかし,練習を行った左大脳皮質脊髄路のMEP振幅は学習に伴って減少し,これと同様に非練習側である右大脳皮質脊髄路のMEP振幅も減少が認められた。以上の結果から一側下肢の運動学習に伴い,技能の転移はもたらさなくとも当該筋を支配する大脳皮質脊髄路興奮性の変化は対側半球に反映されるという可能性を示唆した。