[P-KS-11-3] 歩行速度の変化に伴う筋シナジーパターンの特徴的な因子の分析
Keywords:筋シナジー, 筋電図, 歩行
【はじめに,目的】
歩行を含むあらゆるタスクにおいて,タスク達成に関与する筋の組み合わせは無数に存在する。それらの筋活動の組み合わせを単純化する機構として,作用の類似した筋群をグループ化した筋モジュールが協調的に働く筋シナジーという考え方が注目されている。近年の研究において,健常者の歩行に関する筋シナジーパターンは4つから5つ存在すると報告した。今回我々は,本研究にて抽出された筋シナジーについて,歩行速度の変化に伴った特徴的な因子について分析を行い,歩行に対する理学療法介入の一助とすることを目的とした。
【方法】
対象は健常男性5名(23±1歳)とした。床反力計付きスプリットトレッドミル(BERTEC社,1000Hz),筋電図(Delsys社,1000Hz)を用いて床反力,表面筋電図波形を測定した。対象筋は両側の脊柱起立筋,左側の大腿直筋,内側広筋,外側広筋,大腿筋膜張筋,股関節内転筋群,大殿筋,中殿筋,半腱様筋,大腿二頭筋,前脛骨筋,腓腹筋内側頭,腓腹筋外側頭,ヒラメ筋とした。被験者は安静立位からトレッドミル(0.5,1,2,3,5km/h)の開始とともに約10周期の歩行を行い,4~9周期目までのデータを使用した。歩行周期は,左下肢の1回目の踵接地から2回目の踵接地までの時間を床反力のZ方向成分を用いて定義した。表面筋電図波形は,各歩行周期で時間正規化と加算平均を行い,非負値行列因数分解を用いて筋シナジーを抽出した。各シナジーの活動のピークポイントを算出し,各速度間にてピアソンの積率相関係数を求めた。また今回は,全被験者に共通した特徴が認められた下腿後面筋群のシナジーに関して詳細に分析を行うこととし,同シナジーの最大値と,最大値+20%の範囲での積分値を算出した。解析及び統計にはMatlab2015bを用いた。
【結果】
5名の被験者の歩行から4つから5つの筋シナジーが抽出された。各速度間の相関係数の平均は,被験者1で0.98,被験者2で0.93,被験者3で0.98,被験者4で0.97,被験者5で0.99といずれも高い相関を認めた。下腿後面筋群の関与するシナジーの各速度間での積分値の平均は,0.5km/hで20.49,1km/hで17.43,2km/hで18.05,3km/hで15.51,5km/hで14.72であった。
【結論】
今回の結果から,速度の変化,遊脚期への移行のタイミングに関わらず各シナジーの活動ピークは不変であることが示された。しかし,歩行速度が低下するほど各シナジーの波形が遷延化し,特に下腿後面筋群の関与するシナジーの活動の長期化が認められた。このことから,低速歩行では立脚中期以降に下腿後面筋群の筋活動を遷延化させる何らかのキネマティクスが存在することが示唆され,低速歩行を呈する患者に対するこれらの筋活動の持続時間の短縮は,キネマティクスの改善の一つの指標となり得る可能性が示された。今後は,各シナジーとキネマティクスデータとの関連性についてより詳細な解析を進めていきたい。
歩行を含むあらゆるタスクにおいて,タスク達成に関与する筋の組み合わせは無数に存在する。それらの筋活動の組み合わせを単純化する機構として,作用の類似した筋群をグループ化した筋モジュールが協調的に働く筋シナジーという考え方が注目されている。近年の研究において,健常者の歩行に関する筋シナジーパターンは4つから5つ存在すると報告した。今回我々は,本研究にて抽出された筋シナジーについて,歩行速度の変化に伴った特徴的な因子について分析を行い,歩行に対する理学療法介入の一助とすることを目的とした。
【方法】
対象は健常男性5名(23±1歳)とした。床反力計付きスプリットトレッドミル(BERTEC社,1000Hz),筋電図(Delsys社,1000Hz)を用いて床反力,表面筋電図波形を測定した。対象筋は両側の脊柱起立筋,左側の大腿直筋,内側広筋,外側広筋,大腿筋膜張筋,股関節内転筋群,大殿筋,中殿筋,半腱様筋,大腿二頭筋,前脛骨筋,腓腹筋内側頭,腓腹筋外側頭,ヒラメ筋とした。被験者は安静立位からトレッドミル(0.5,1,2,3,5km/h)の開始とともに約10周期の歩行を行い,4~9周期目までのデータを使用した。歩行周期は,左下肢の1回目の踵接地から2回目の踵接地までの時間を床反力のZ方向成分を用いて定義した。表面筋電図波形は,各歩行周期で時間正規化と加算平均を行い,非負値行列因数分解を用いて筋シナジーを抽出した。各シナジーの活動のピークポイントを算出し,各速度間にてピアソンの積率相関係数を求めた。また今回は,全被験者に共通した特徴が認められた下腿後面筋群のシナジーに関して詳細に分析を行うこととし,同シナジーの最大値と,最大値+20%の範囲での積分値を算出した。解析及び統計にはMatlab2015bを用いた。
【結果】
5名の被験者の歩行から4つから5つの筋シナジーが抽出された。各速度間の相関係数の平均は,被験者1で0.98,被験者2で0.93,被験者3で0.98,被験者4で0.97,被験者5で0.99といずれも高い相関を認めた。下腿後面筋群の関与するシナジーの各速度間での積分値の平均は,0.5km/hで20.49,1km/hで17.43,2km/hで18.05,3km/hで15.51,5km/hで14.72であった。
【結論】
今回の結果から,速度の変化,遊脚期への移行のタイミングに関わらず各シナジーの活動ピークは不変であることが示された。しかし,歩行速度が低下するほど各シナジーの波形が遷延化し,特に下腿後面筋群の関与するシナジーの活動の長期化が認められた。このことから,低速歩行では立脚中期以降に下腿後面筋群の筋活動を遷延化させる何らかのキネマティクスが存在することが示唆され,低速歩行を呈する患者に対するこれらの筋活動の持続時間の短縮は,キネマティクスの改善の一つの指標となり得る可能性が示された。今後は,各シナジーとキネマティクスデータとの関連性についてより詳細な解析を進めていきたい。