[P-KS-17-1] 視覚情報と体性感覚情報が運動学習に及ぼす影響:機能的近赤外分光装置研究
キーワード:運動学習, 視覚情報, 体性感覚情報
【はじめに,目的】
近年,脳機能イメージングの進歩に伴い,運動学習過程における大脳皮質の各運動関連領域の役割の違いが明らかになりつつある。本研究では,座位における到達運動時の運動学習過程を近赤外分光イメージング装置(functional near infrared spectroscopy,fNIRS)を用いて測定した。本研究の目的は,プリズム眼鏡着用下での上肢到達運動における視覚情報と体性感覚情報が運動学習に及ぼす影響を検証することである。
【方法】
右手で把持したペンを,スタート地点からゴール地点まで正確に到達することを課題とした。課題は2種類の眼鏡(プリズムなし:control,右に10°偏位するプリズム眼鏡:Rt10°)を装着し行った。始めにゴール位置を被験者に示し,閉眼での20秒間の安静後,開眼条件では開眼して,閉眼条件では閉眼したまま10秒かけてゴール地点を目指すよう指示をした。ゴール到着後再びゴール位置を提示し,その誤差を確認させ,これを7回繰り返した。行動学的検査にはゴール地点までの誤差距離を用い,脳機能検査には到達運動実施中の血流変化を解析対象とした。
【結果】
行動学的検査では,開眼時control条件とRt10°条件で1,2試行目より3~7試行目で誤差距離が有意に減少した(p=0.0004,p=0.0002)。閉眼時control条件とRt10°条件においては,1試行目より2~7試行目で誤差は有意に減少した(p=0.0001,p=0.0001)。
脳機能検査では閉眼・control条件において,運動習熟前より運動習熟後で右PFCの有意なOxyHb増加が観察された。開眼・Rt10°においては運動習熟後より運動習熟前で左PFCで有意に活動が増加した。また,運動習熟前の開眼時control条件とRt10°条件の比較では有意差が認められなかったが,閉眼時にはcontrol条件よりRt10°条件で右PFCで有意に活動が増加した。運動習熟後の開眼時にはRt10°条件よりcontrol条件で左PFCで有意に活動が増加し,閉眼時にはRt10°条件よりcontrol条件でpreSMAで有意に活動が増加した。
【結論】
開眼・control条件,閉眼・Rt10°条件では行動学的に確認された運動習熟によって,賦活化される脳部位に切り替えが認められなかった。閉眼・control(視覚的錯乱のない体性感覚情報による運動制御)条件では運動習熟に伴い右前頭前野の活動増加が認められた。開眼Rt10°(視覚的錯乱に対する視覚・体性感覚情報による運動制御)条件では学習初期に賦活化された左前頭前野の活動が運動の習熟に伴い抑制された。以上より,運動制御に動員される感覚モダリティーによって運動習熟に伴った脳の可塑的変化は異なることが示唆された。
近年,脳機能イメージングの進歩に伴い,運動学習過程における大脳皮質の各運動関連領域の役割の違いが明らかになりつつある。本研究では,座位における到達運動時の運動学習過程を近赤外分光イメージング装置(functional near infrared spectroscopy,fNIRS)を用いて測定した。本研究の目的は,プリズム眼鏡着用下での上肢到達運動における視覚情報と体性感覚情報が運動学習に及ぼす影響を検証することである。
【方法】
右手で把持したペンを,スタート地点からゴール地点まで正確に到達することを課題とした。課題は2種類の眼鏡(プリズムなし:control,右に10°偏位するプリズム眼鏡:Rt10°)を装着し行った。始めにゴール位置を被験者に示し,閉眼での20秒間の安静後,開眼条件では開眼して,閉眼条件では閉眼したまま10秒かけてゴール地点を目指すよう指示をした。ゴール到着後再びゴール位置を提示し,その誤差を確認させ,これを7回繰り返した。行動学的検査にはゴール地点までの誤差距離を用い,脳機能検査には到達運動実施中の血流変化を解析対象とした。
【結果】
行動学的検査では,開眼時control条件とRt10°条件で1,2試行目より3~7試行目で誤差距離が有意に減少した(p=0.0004,p=0.0002)。閉眼時control条件とRt10°条件においては,1試行目より2~7試行目で誤差は有意に減少した(p=0.0001,p=0.0001)。
脳機能検査では閉眼・control条件において,運動習熟前より運動習熟後で右PFCの有意なOxyHb増加が観察された。開眼・Rt10°においては運動習熟後より運動習熟前で左PFCで有意に活動が増加した。また,運動習熟前の開眼時control条件とRt10°条件の比較では有意差が認められなかったが,閉眼時にはcontrol条件よりRt10°条件で右PFCで有意に活動が増加した。運動習熟後の開眼時にはRt10°条件よりcontrol条件で左PFCで有意に活動が増加し,閉眼時にはRt10°条件よりcontrol条件でpreSMAで有意に活動が増加した。
【結論】
開眼・control条件,閉眼・Rt10°条件では行動学的に確認された運動習熟によって,賦活化される脳部位に切り替えが認められなかった。閉眼・control(視覚的錯乱のない体性感覚情報による運動制御)条件では運動習熟に伴い右前頭前野の活動増加が認められた。開眼Rt10°(視覚的錯乱に対する視覚・体性感覚情報による運動制御)条件では学習初期に賦活化された左前頭前野の活動が運動の習熟に伴い抑制された。以上より,運動制御に動員される感覚モダリティーによって運動習熟に伴った脳の可塑的変化は異なることが示唆された。