第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P18

2016年5月28日(土) 10:30 〜 11:30 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-18-1] クラシックバレエ経験者と非経験者における立位姿勢制御の比較

伊吹愛梨1, 長谷川直哉1, 武田賢太1, 石川啓太1, 佐久間萌1, 佐藤祐樹1, 田中晨太郎1, 萬井太規2, 前島洋2, 浅賀忠義2 (1.北海道大学大学院保健科学院, 2.北海道大学大学院保健科学研究院)

キーワード:姿勢制御, 足圧中心, 重心

【はじめに,目的】

姿勢安定性を示す指標として,足圧中心(Center of Pressure:COP)が多く用いられる。既往研究の多くは,COPの動揺が大きいほど姿勢安定性は低いと解釈されている。しかし,姿勢安定性の低下が観察されるパーキンソン病患者においては,健常者と比較してCOP動揺は小さいことが示されている(Horak, et al., 1992)。一方,バランス能力の優れているバレエダンサーの静止立位時のCOP動揺は非経験者と違いが無いという報告(Hugel, et al., 1998)もあり,COPのみを指標とすることに疑問が生じる。従って本研究の目的は,優れたバランス能力を検出するための指標について検討することだった。そのために,クラシックバレエ経験者と非経験者を対象に立位姿勢保持中のCOP,体重心(Body's center of Mass:COM),およびCOPとCOMの距離(COP-COM間距離)を比較検討した。

【方法】

対象者はクラシックバレエ経験のない健常若年女性10名(コントロール群,22.6±1.3歳,157.9±5.2cm,53.1±3.8kg)と,クラシックバレエ経験のある健常若年女性10名(バレエ群,23.1±1.2歳,156.7±5.4cm,44.5±2.3kg,平均経験年数15.1±4.2年)とした。課題動作は両脚立位,片脚立位,両脚つま先立ちの3条件をそれぞれ開眼・閉眼で30秒間保持することとした。赤外線カメラと三次元動作解析装置(Motion Analysis,200Hz),床反力計(Kistler,1000Hz)を用いて動作を記録し,COP座標とCOM座標を算出した。算出データはCOPおよびCOMの単位軌跡長,動揺面積,前後方向・左右方向のCOP-COM間距離とした。COP-COM間距離はCOP座標からCOM座標を引き,絶対値化してから課題時間全てを加算した値(|COP-COM|),および絶対値化せずに加算した値(COP-COM)の2変数を算出した。|COP-COM|は小さいほどCOPがCOMの近くを動いていることを示し,COP-COMは小さいほどCOPがCOMの前後(左右)を均等に動いていることを示す。統計解析は,Shapiro-wilk検定で正規性の検定を行った後,対応のないt検定とMann-WhitneyのU検定を用いて2群間の比較を行った。有意水準は5%未満とした。

【結果】

片脚立位動作でのみ2群間に有意差が認められた。片脚立位中の|COP-COM|およびCOP-COM双方において,前後方向・左右方向ともに両視覚条件でバレエ群がコントロール群と比較して有意に小さかった(p<0.05)。COPおよびCOMの単位軌跡長と動揺面積は,両方向・両視覚条件で2群間に有意差は認められなかった。

【結論】

バレエ群の特徴として,片脚立位においてCOPがCOMのより近くを動いていることが示された。さらに,COPがCOMの前後左右をより均等に動いていることが示された。バランス能力の高い者は,COPがCOMに正確に近づき,COMの前後左右を均等に動くことで,身体に発生するモーメントを小さく且つ方向を偏らせずに制御していると考えられる。静的な姿勢安定性を示す指標として,COPとCOMの距離はCOPもしくはCOMのみに着目した指標よりも優れている。