[P-KS-20-2] 高齢者の立位姿勢に対する重心動揺リアルタイムフィードバックの介入効果
Keywords:高齢者, 姿勢制御, 重心動揺リアルタイムフィードバック
【はじめに,目的】
重心動揺リアルタイムフィードバック装置「BASYS」は,立位姿勢時の足圧中心の前後変位をフィードバック信号として床面をリアルタイムに動揺させ,本人の知覚にのぼらないレベルで姿勢動揺量を操作的に減弱(in-phase条件),あるいは増幅(anti-phase条件)させることで立位姿勢における随意調節と反射調節のバランスを潜在的かつ合目的に調整しようとするものである。本発表では,転倒歴のある高齢者に対して,脊髄反射による自律的な姿勢調整を促す作用を持つanti-phase条件による治療介入をBASYSを用いて行い,一過性の介入前後の重心動揺特性及び筋活動の変化を検討することを目的とした。
【方法】
対象は本研究に同意を得た整形疾患既往歴のある高齢者22名とした。対象者は,BASYS上に普段通りの立位姿勢を取るよう指示を与え,開眼静止立位を30秒間実施した。立位姿勢に対する介入として,足圧中心(center of pressure:COP)の前後方向と逆方向にフィードバックを与えることにより,動揺量を増幅させる設定(anti-phase)を用いた。フィードバックゲインはCOP動揺量の約5%,10%,15%の3段階であり,とりわけ低いゲイン設定では,対象者が知覚できないほどの微小な揺れであった。各試行30秒を1セットとし,介入前の静止立位,anti-phase条件(5%,10%,15%),介入後の静止立位を測定した。介入効果の評価には,静止立位姿勢時のCOPと筋電図(前脛骨筋,ヒラメ筋)の計測を実施した。介入前後の平均値の差の検定には対応のあるt検定を用い検討した。また,Pearsonの積率相関係数を用いて,COPの前方への変位量(介入後-介入前)と筋活動の変化量の関係性を検討した。本研究における有意水準は5%とした。
【結果】
COP動揺の前後方向の平均値は,介入前と比較して介入後に前方に変位する結果が得られた(p<0.05)。95%信頼楕円面積及び,前後の動揺範囲は介入後で有意に減少した(p<0.05)。静止立位時の前脛骨筋の活動量は介入後で有意に減少した(p<0.05)。ヒラメ筋は,介入前後で有意差を認めなかったものの,COPの前方への変位量とヒラメ筋の筋活動の変化量は正の相関を認めた(r=0.58,p=0.004)。
【結論】
重心動揺リアルタイムフィードバック装置におけるanti-phase条件は,重心動揺を操作的に増幅させることによって脊髄反射による自律的な姿勢調整を促す作用を持つ。本研究の結果は,anti-phaseを用いた調整的介入によりCOPの位置が前後方向へ移動することで前脛骨筋の活動減少とともにヒラメ筋の関与の増加が生じ,重心動揺量の減少をもたらした可能性を示している。この結果からBASYSのanti-phase条件での介入は,後方重心となりやすい高齢者に対して重心位置を前方へ移動させることで脊髄反射による自律的な姿勢調整を促す有効なアプローチとなる可能性が示された。
重心動揺リアルタイムフィードバック装置「BASYS」は,立位姿勢時の足圧中心の前後変位をフィードバック信号として床面をリアルタイムに動揺させ,本人の知覚にのぼらないレベルで姿勢動揺量を操作的に減弱(in-phase条件),あるいは増幅(anti-phase条件)させることで立位姿勢における随意調節と反射調節のバランスを潜在的かつ合目的に調整しようとするものである。本発表では,転倒歴のある高齢者に対して,脊髄反射による自律的な姿勢調整を促す作用を持つanti-phase条件による治療介入をBASYSを用いて行い,一過性の介入前後の重心動揺特性及び筋活動の変化を検討することを目的とした。
【方法】
対象は本研究に同意を得た整形疾患既往歴のある高齢者22名とした。対象者は,BASYS上に普段通りの立位姿勢を取るよう指示を与え,開眼静止立位を30秒間実施した。立位姿勢に対する介入として,足圧中心(center of pressure:COP)の前後方向と逆方向にフィードバックを与えることにより,動揺量を増幅させる設定(anti-phase)を用いた。フィードバックゲインはCOP動揺量の約5%,10%,15%の3段階であり,とりわけ低いゲイン設定では,対象者が知覚できないほどの微小な揺れであった。各試行30秒を1セットとし,介入前の静止立位,anti-phase条件(5%,10%,15%),介入後の静止立位を測定した。介入効果の評価には,静止立位姿勢時のCOPと筋電図(前脛骨筋,ヒラメ筋)の計測を実施した。介入前後の平均値の差の検定には対応のあるt検定を用い検討した。また,Pearsonの積率相関係数を用いて,COPの前方への変位量(介入後-介入前)と筋活動の変化量の関係性を検討した。本研究における有意水準は5%とした。
【結果】
COP動揺の前後方向の平均値は,介入前と比較して介入後に前方に変位する結果が得られた(p<0.05)。95%信頼楕円面積及び,前後の動揺範囲は介入後で有意に減少した(p<0.05)。静止立位時の前脛骨筋の活動量は介入後で有意に減少した(p<0.05)。ヒラメ筋は,介入前後で有意差を認めなかったものの,COPの前方への変位量とヒラメ筋の筋活動の変化量は正の相関を認めた(r=0.58,p=0.004)。
【結論】
重心動揺リアルタイムフィードバック装置におけるanti-phase条件は,重心動揺を操作的に増幅させることによって脊髄反射による自律的な姿勢調整を促す作用を持つ。本研究の結果は,anti-phaseを用いた調整的介入によりCOPの位置が前後方向へ移動することで前脛骨筋の活動減少とともにヒラメ筋の関与の増加が生じ,重心動揺量の減少をもたらした可能性を示している。この結果からBASYSのanti-phase条件での介入は,後方重心となりやすい高齢者に対して重心位置を前方へ移動させることで脊髄反射による自律的な姿勢調整を促す有効なアプローチとなる可能性が示された。