第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P21

2016年5月28日(土) 11:40 〜 12:40 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-21-1] 身体所有感および重さの知覚の変調が筋活動に及ぼす影響

大住倫弘1, 谷口愛美2, 信迫悟志1, 森岡周1,2 (1.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター, 2.畿央大学健康科学部理学療法学科)

キーワード:身体所有感, 筋活動, 重さの知覚

【はじめに】運動指令とそれに対する感覚フィードバックの間に不一致が生じると,過度な重さ知覚や異常感覚,さらには身体所有感覚の損失が生じることが報告されている(Foelletal, et al., 2013)。本研究は,それらの主観的知覚の変調が運動に及ぼす影響を明らかにすることである。


【方法】対象は健常大学生22名として,主観的知覚の変調を実験的に惹起させるために映像遅延システムを用いた。映像遅延システムでは,被験者の膝元の台上での手の運動をビデオカメラで撮影し,その映像を映像遅延装置(朋栄YEMエレテックス)経由で頭上にセットされた液晶モニターに投影し,その映像を動かしている手の上に置かれた鏡に映した。この鏡の角度は,被験者の手が水平に置いてあるように見える調節がなされているため,被験者は鏡に映る手をあたかも自分の手のように感じることができる。そして,上述の映像遅延装置を用いて,被験者の手の映像に4水準の映像遅延(150,250,350,600msec)を挿入し,それぞれの水準条件で手関節掌背屈運動時の撓側手根屈筋・撓側手根伸筋の筋活動を無線筋電計(DELSYS Trigno)で記録した。また,それぞれの水準条件における主観的知覚の変化を「自分の手ではないように感じた」,「動かしていると重いと感じた」という質問項目に対しての7段階のリッカート尺度で記録した。各水準条件はランダムに2試行ずつ実施され,各試行での手関節掌背屈運動は10回とした。得られた筋電データは,2次のバターワースフィルター(bandpass:10-400Hz)を設計し,整流化された筋電データの安静時0.025秒の平均振幅を求め,その平均振幅+2SD以上の振幅を有する区間の積分値(時間で正規化)を算出した。各条件における主観的知覚の変化はone way repeated ANOVA(post hocにはbonferroni method)で比較し,主観的知覚の変化と筋活動との相関関係をピアソンの相関係数で求めた。有意水準は5%とした。


【結果】主観的知覚である身体所有感の損失および主観的重さは,遅延時間の延長に伴って増大し,250,350,600msec条件は150msec条件よりも有意に大きかった。また,600msec条件における橈骨手根屈筋の筋活動と主観的重さの変化との間に有意な相関関係が認められた。つまり,自身の手を重たく感じている者ほど,橈骨手根屈筋の筋活動が増大していたという結果であった。さらに,主観的重さの変化に特徴づけられた筋活動の変化を抽出するために,身体所有感の損失が認められず,主観的重さのみ増大した2名の筋活動を分析すると,手関節伸展時の拮抗筋である撓側手根屈筋の弛緩が生じない特徴が認められた。


【結論】随意運動に伴う視覚フィードバックの時間的遅延を加えることによって,身体所有感の損失や重さの増大という主観的知覚の変化が認められた。また,主観的重さの増大は拮抗筋の筋活動を増大させてしまい,円滑な筋活動を損なう心理的要因になることが明らかとなった。