[P-KS-23-5] 体幹前傾運動の制限が椅子からの立ち上がり動作の協調性に及ぼす影響
Uncontrolled Manifold解析を用いて
Keywords:立ち上がり, 協調性, Uncontrolled Manifold 解析
【はじめに,目的】
椅子からの立ち上がり動作(sit-to-stand:以下,STS)時の体幹前傾運動は身体重心(center of mass:以下,COM)の前方移動に重要な運動とされているが,体幹前傾運動が禁忌とされる症例では,この運動は身体全体の協調性に影響を及ぼす可能性がある。しかし,協調性の観点から検討した報告は渉猟する限り見当たらない。そこで本研究は,運動協調性の定量的評価法の1つであるUncontrolled Manifold解析を用いて,体幹前傾運動の制限がSTS時のCOM制御に関与する各身体セグメント角度の協調性に及ぼす影響を明らかにすることを目的として行った。
【方法】
被験者は健常若年女性9人であった。課題動作は,快適スピードでのSTSとし,通常条件(以下,N)と,体幹前傾運動を制限した条件(以下,TV)で各5試行ずつ行った。運動学的データは4台のCCDカメラからなる三次元動作解析システム(キッセイコムテック社製)を用いて取得し,数値解析ソフトウェアMatLab R 2014a(MathWorks社製)を用いて,要素変数に各身体セグメント角度,タスク変数にCOM座標を設定し,それらの関係式を求めた。タスク変数は,タスクを安定化させる変動(以下,VUCM),タスクを不安定にする変動(以下,VORT),協調性の指標(以下,ΔV)をそれぞれ前後方向座標yと鉛直方向座標zに分けて算出した。解析は動作開始時0%,離臀時50%,動作終了時100%となるよう時間正規化を行い,10%ごとの平均値に対して行った。運動力学的データは4基の床反力計(Advanced Mechanical Technology社およびKistler社製床反力計各2基)を用いて,膝関節伸展モーメント(以下,KEM)最大値を算出した。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver.22.0(日本アイ・ビー・エム社製)を用いて,対応のあるt検定またはWilcoxonの符号付き順位検定を行い,有意水準は5%とした。
【結果】
ΔVyは,30~40%区間でTVがNより有意に低かった(p<0.01)。鉛直方向のVORTは,80~90%区間でTVがNより有意に高かった(p<0.01)。ΔVzは,70~80%,80~90%区間でTVがNより有意に低かった(p<0.05)。KEM最大値は,TVがNより有意に高かった(N:0.69±0.13[Nm/kg],TV:0.83±0.18[Nm/kg],p<0.01)。
【結論】
体幹前傾運動を制限したSTSでは,離殿前に前後方向の協調性が低値を示した。これは,COM座標制御に利用可能な体幹の自由度の冗長性を抑える一方,下腿,大腿への制御の関与を高めていたと考えられた。離殿後は鉛直方向の協調性が低値を示した。先行研究より,前後方向のCOM座標制御は身体の平衡を維持するために鉛直方向より重要とされ,本研究でも前後方向のCOM座標制御が優先され,膝関節へ力学的負担が加わり,鉛直方向の協調性が低下したと考えられた。体幹前傾運動が禁忌とされるSTSでは,他の関節の可動性を保ち,COM座標を安定化させる自由度の冗長性の利用を高めることが有効である可能性が示唆された。
椅子からの立ち上がり動作(sit-to-stand:以下,STS)時の体幹前傾運動は身体重心(center of mass:以下,COM)の前方移動に重要な運動とされているが,体幹前傾運動が禁忌とされる症例では,この運動は身体全体の協調性に影響を及ぼす可能性がある。しかし,協調性の観点から検討した報告は渉猟する限り見当たらない。そこで本研究は,運動協調性の定量的評価法の1つであるUncontrolled Manifold解析を用いて,体幹前傾運動の制限がSTS時のCOM制御に関与する各身体セグメント角度の協調性に及ぼす影響を明らかにすることを目的として行った。
【方法】
被験者は健常若年女性9人であった。課題動作は,快適スピードでのSTSとし,通常条件(以下,N)と,体幹前傾運動を制限した条件(以下,TV)で各5試行ずつ行った。運動学的データは4台のCCDカメラからなる三次元動作解析システム(キッセイコムテック社製)を用いて取得し,数値解析ソフトウェアMatLab R 2014a(MathWorks社製)を用いて,要素変数に各身体セグメント角度,タスク変数にCOM座標を設定し,それらの関係式を求めた。タスク変数は,タスクを安定化させる変動(以下,VUCM),タスクを不安定にする変動(以下,VORT),協調性の指標(以下,ΔV)をそれぞれ前後方向座標yと鉛直方向座標zに分けて算出した。解析は動作開始時0%,離臀時50%,動作終了時100%となるよう時間正規化を行い,10%ごとの平均値に対して行った。運動力学的データは4基の床反力計(Advanced Mechanical Technology社およびKistler社製床反力計各2基)を用いて,膝関節伸展モーメント(以下,KEM)最大値を算出した。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver.22.0(日本アイ・ビー・エム社製)を用いて,対応のあるt検定またはWilcoxonの符号付き順位検定を行い,有意水準は5%とした。
【結果】
ΔVyは,30~40%区間でTVがNより有意に低かった(p<0.01)。鉛直方向のVORTは,80~90%区間でTVがNより有意に高かった(p<0.01)。ΔVzは,70~80%,80~90%区間でTVがNより有意に低かった(p<0.05)。KEM最大値は,TVがNより有意に高かった(N:0.69±0.13[Nm/kg],TV:0.83±0.18[Nm/kg],p<0.01)。
【結論】
体幹前傾運動を制限したSTSでは,離殿前に前後方向の協調性が低値を示した。これは,COM座標制御に利用可能な体幹の自由度の冗長性を抑える一方,下腿,大腿への制御の関与を高めていたと考えられた。離殿後は鉛直方向の協調性が低値を示した。先行研究より,前後方向のCOM座標制御は身体の平衡を維持するために鉛直方向より重要とされ,本研究でも前後方向のCOM座標制御が優先され,膝関節へ力学的負担が加わり,鉛直方向の協調性が低下したと考えられた。体幹前傾運動が禁忌とされるSTSでは,他の関節の可動性を保ち,COM座標を安定化させる自由度の冗長性の利用を高めることが有効である可能性が示唆された。