[P-KS-26-6] ラット前十字靭帯損傷モデルにおける前方引き出しの制動が急性期の靭帯治癒関連因子に与える影響
キーワード:前十字靭帯損傷, 自己治癒, 関節制動
【はじめに,目的】
膝前十字靭帯(Anterior cruciate ligament;ACL)損傷後早期から異常関節運動を制動することでヒトACLが治癒することが報告されている。我々のラットを用いたこれまでの研究において,異常関節運動の制動により損傷ACLが4週で再連続性を獲得し,2週時点で血管新生に関与する血管内皮細胞増殖因子や組織の線維化に関与するα平滑筋アクチンの発現が増加する事を報告した。しかし,いずれの研究も治癒過程における増殖期やリモデリング期の研究が主であり,損傷後急性期における靭帯治癒関連因子の発現は明らかにされていない。そこで本研究は,ACL治癒過程における急性期の関節内変化を靭帯治癒関連因子に着目して明らかにすることを目的とした。
【方法】
Wistar系雄性ラット(11週齢)60匹を対象とし,ACL切断群(ACL-Transection;ACL-T)と関節制動群(Controlled abnormal movement;CAM)に30匹ずつ振り分けた。右後肢を対象にACL-Tに対しACLの切断を行い,CAMに対しACL切断後関節包外より脛骨の前方引き出しの制動を行った。損傷後1,3,5日時点で各群3匹は膝関節を採取し組織学的解析としてHE染色を実施,各群7匹はACLを採取し生化学的解析として線維芽細胞の増殖やコラーゲン生成を刺激し靭帯治癒に関与する血小板由来成長因子(Platelet-Derived Growth Factor;PDGF)とトランスフォーミング増殖因子-β1(Transforming Growth Factor-β1;TGF-β1)mRNA発現量をreal time PCR法にて解析した。左後肢は対照群(Control;CTR)とした。統計処理は一元配置分散分析を用い,多重比較にTukey法を用いた。
【結果】
組織学的解析の結果,ACL-TではACLの連続性はなく,中枢側断端の後方偏位が観察された。時間経過とともに断端の退縮と形態破壊が観察された。CAMではACLの連続性と断端偏位はなく,時間経過とともに断端間の狭小化が観察された。生化学的解析の結果,各因子損傷後5日時点のCTRの発現量を1とするとPDGFaはACL-T 0.15倍,CAM 0.61倍,PDGFbはACL-T 0.29倍,CAM 0.97倍で,いずれもACL-Tと比してCAMにおいて有意に増加した(p<0.05)。TGF-β1はACL-T 1.49倍,CAM 0.77倍で,ACL-Tと比してCAMにおいて有意に減少した(p<0.01)。
【結論】
関節制動により,組織学的にはACL損傷後急性期から断端の形態破壊が抑制された。生化学的にはPDGFやTGF-β1 mRNA発現量がより対照群に類似した発現となり,急性期から靭帯治癒関連因子動態に変化をもたらすことが示唆された。今後さらに蛋白質の発現を検討する必要はあるが,ACL治癒過程における関節内環境の解析を進める事で関節制動を行うことによる早期運動療法の効果を示唆できる可能性がある。
膝前十字靭帯(Anterior cruciate ligament;ACL)損傷後早期から異常関節運動を制動することでヒトACLが治癒することが報告されている。我々のラットを用いたこれまでの研究において,異常関節運動の制動により損傷ACLが4週で再連続性を獲得し,2週時点で血管新生に関与する血管内皮細胞増殖因子や組織の線維化に関与するα平滑筋アクチンの発現が増加する事を報告した。しかし,いずれの研究も治癒過程における増殖期やリモデリング期の研究が主であり,損傷後急性期における靭帯治癒関連因子の発現は明らかにされていない。そこで本研究は,ACL治癒過程における急性期の関節内変化を靭帯治癒関連因子に着目して明らかにすることを目的とした。
【方法】
Wistar系雄性ラット(11週齢)60匹を対象とし,ACL切断群(ACL-Transection;ACL-T)と関節制動群(Controlled abnormal movement;CAM)に30匹ずつ振り分けた。右後肢を対象にACL-Tに対しACLの切断を行い,CAMに対しACL切断後関節包外より脛骨の前方引き出しの制動を行った。損傷後1,3,5日時点で各群3匹は膝関節を採取し組織学的解析としてHE染色を実施,各群7匹はACLを採取し生化学的解析として線維芽細胞の増殖やコラーゲン生成を刺激し靭帯治癒に関与する血小板由来成長因子(Platelet-Derived Growth Factor;PDGF)とトランスフォーミング増殖因子-β1(Transforming Growth Factor-β1;TGF-β1)mRNA発現量をreal time PCR法にて解析した。左後肢は対照群(Control;CTR)とした。統計処理は一元配置分散分析を用い,多重比較にTukey法を用いた。
【結果】
組織学的解析の結果,ACL-TではACLの連続性はなく,中枢側断端の後方偏位が観察された。時間経過とともに断端の退縮と形態破壊が観察された。CAMではACLの連続性と断端偏位はなく,時間経過とともに断端間の狭小化が観察された。生化学的解析の結果,各因子損傷後5日時点のCTRの発現量を1とするとPDGFaはACL-T 0.15倍,CAM 0.61倍,PDGFbはACL-T 0.29倍,CAM 0.97倍で,いずれもACL-Tと比してCAMにおいて有意に増加した(p<0.05)。TGF-β1はACL-T 1.49倍,CAM 0.77倍で,ACL-Tと比してCAMにおいて有意に減少した(p<0.01)。
【結論】
関節制動により,組織学的にはACL損傷後急性期から断端の形態破壊が抑制された。生化学的にはPDGFやTGF-β1 mRNA発現量がより対照群に類似した発現となり,急性期から靭帯治癒関連因子動態に変化をもたらすことが示唆された。今後さらに蛋白質の発現を検討する必要はあるが,ACL治癒過程における関節内環境の解析を進める事で関節制動を行うことによる早期運動療法の効果を示唆できる可能性がある。