[P-KS-28-1] 義足に対する空間注意と義足歩行能力との関係
身体性注意に着目して
Keywords:義足, 注意, 身体図式
【はじめに,目的】
道具は,使用の熟達により自己身体の一部であるかのような感覚が生じることが知られており,さらに,このような主観的な変化に対応するような神経活動が存在することが知られている(Iriki 1998)。道具に対するこのような主観的な変化は,道具が身体図式へ取り込まれることにより生じると考えられ,身体化と言われている。四肢切断のリハビリテーションにおいて義足の身体化は,義足歩行の習熟と非常に強い関係があると考えられるが,身体化を計測する手法がないため,その関係性は未だ明らかではない。
我々のグループでは,空間注意課題を用いて自己身体には絶えず潜在的注意(身体性注意)が向けられていることを報告し,身体と身体外空間との弁別である身体認識である身体化の指標になり得る可能性を検討してきた。そこで,本研究では,道具の身体化が道具の熟達度に与える影響を知るために,身体化の指標である義足に対する身体性注意を計測し,義足の習熟度を示す一指標である最大歩行速度との関係を調べることを目的とした。
【方法】
健常者11名,一側下肢切断者8名(大腿4名,下腿4名)において空間注意課題を用いて,健常者は左右の足部に向けられる注意量,切断者は義足に向けられる注意量と健常足に向けられる注意量を測定した。空間注意課題は,視覚刺激が足部上(義足上)または足部外のいずれかに現れた際に右示指でボタンを押す課題である。視覚刺激が足部外に現れた際の反応時間から,視覚刺激が足部上に現れた際の反応時間を除した値を足部(義足)に向けられる注意量とした。さらに,義足歩行能力として最大歩行速度,義足の身体所有感のスコア,幻肢の鮮明さ,幻肢痛の強さも調べた。
【結果】
健常者は,左右足部ともに足部上の視覚刺激に対する反応時間が足部外より有意に短くなることを示し,左右差は認めなかった。切断者では,義足に向けられる注意量は健側足に向けられる注意量と比較して有意に低い値を示した。相関解析により,義足に向けられる注意量は最大歩行速度と負の相関傾向を認めた(r=-0.55)が,義足の身体所有感のスコア,幻肢の鮮明さ,幻肢痛の強さとの間に相関関係は認めなかった。
【結論】
切断者では,義足に向けられる注意量は健側足より低かった。また,相関の結果より,義足に向けられる注意量が低い切断者ほど,義足歩行における最大歩行速度が速くなった。つまり,義足を自己身体として捉えるのではなく,義足を身体ではない道具として扱っている切断者ほど最大歩行速度が速くなる傾向が示された。このことは,最大歩行速度は,歩容やエネルギー効率などを無視して速度のみに注目した指標であるため,義足の習熟度を必要としなかったからと考えられる。よって,歩行速度には,義足の身体化はむしろ阻害要因になる可能性が示され,今後より幅広い歩行の指標との関連性を調べる必要性が考えられた。
道具は,使用の熟達により自己身体の一部であるかのような感覚が生じることが知られており,さらに,このような主観的な変化に対応するような神経活動が存在することが知られている(Iriki 1998)。道具に対するこのような主観的な変化は,道具が身体図式へ取り込まれることにより生じると考えられ,身体化と言われている。四肢切断のリハビリテーションにおいて義足の身体化は,義足歩行の習熟と非常に強い関係があると考えられるが,身体化を計測する手法がないため,その関係性は未だ明らかではない。
我々のグループでは,空間注意課題を用いて自己身体には絶えず潜在的注意(身体性注意)が向けられていることを報告し,身体と身体外空間との弁別である身体認識である身体化の指標になり得る可能性を検討してきた。そこで,本研究では,道具の身体化が道具の熟達度に与える影響を知るために,身体化の指標である義足に対する身体性注意を計測し,義足の習熟度を示す一指標である最大歩行速度との関係を調べることを目的とした。
【方法】
健常者11名,一側下肢切断者8名(大腿4名,下腿4名)において空間注意課題を用いて,健常者は左右の足部に向けられる注意量,切断者は義足に向けられる注意量と健常足に向けられる注意量を測定した。空間注意課題は,視覚刺激が足部上(義足上)または足部外のいずれかに現れた際に右示指でボタンを押す課題である。視覚刺激が足部外に現れた際の反応時間から,視覚刺激が足部上に現れた際の反応時間を除した値を足部(義足)に向けられる注意量とした。さらに,義足歩行能力として最大歩行速度,義足の身体所有感のスコア,幻肢の鮮明さ,幻肢痛の強さも調べた。
【結果】
健常者は,左右足部ともに足部上の視覚刺激に対する反応時間が足部外より有意に短くなることを示し,左右差は認めなかった。切断者では,義足に向けられる注意量は健側足に向けられる注意量と比較して有意に低い値を示した。相関解析により,義足に向けられる注意量は最大歩行速度と負の相関傾向を認めた(r=-0.55)が,義足の身体所有感のスコア,幻肢の鮮明さ,幻肢痛の強さとの間に相関関係は認めなかった。
【結論】
切断者では,義足に向けられる注意量は健側足より低かった。また,相関の結果より,義足に向けられる注意量が低い切断者ほど,義足歩行における最大歩行速度が速くなった。つまり,義足を自己身体として捉えるのではなく,義足を身体ではない道具として扱っている切断者ほど最大歩行速度が速くなる傾向が示された。このことは,最大歩行速度は,歩容やエネルギー効率などを無視して速度のみに注目した指標であるため,義足の習熟度を必要としなかったからと考えられる。よって,歩行速度には,義足の身体化はむしろ阻害要因になる可能性が示され,今後より幅広い歩行の指標との関連性を調べる必要性が考えられた。