[P-KS-28-5] 選択的注意課題を用いたステップ動作練習の効果
予測的姿勢調整に与える影響と課題特異性の検証
キーワード:学習, ステップ動作, 課題特異性
【はじめに,目的】
転倒回避において,注意を要する環境下で素早くステップすることは重要な能力の一つである。ステップ動作開始時に誤った方向に体重移動してしまうことを予測的姿勢調整(以下APA)の潜在エラーといい,Uemuraら(2012)は,注意負荷を生じるFlanker task(以下FT)に対するステップ動作開始の際,高齢者は潜在エラーが生じやすく,エラーによるステップ動作の遅延が大きいと報告している。一方,ステップ練習の効果について,Pichierriら(2012)は認知課題を用いたステップ練習によって,ステップ動作開始時の所要時間が短くなったと報告したが,APAの変化については不明な点が多い。そこで選択的注意課題を用いてステップ練習を行った際に,予測的姿勢調整に与える影響を明らかにするとともに,課題特異性を検証することを本研究の目的とした。
【方法】
選択的注意課題について,周囲の状況に応じて判断・選択し足を踏み出すまでの一連の過程にアプローチするステップ練習と,判断・選択する過程のみにアプローチする指押し反応練習を設定した。健常若年者32名(年齢21.38±1.93歳)を,ステップ練習をするステップ群,指押し反応練習をする指押し群,両方を半数回ずつ練習する両練習群,練習なし群の4群に分けた。それぞれの練習に→→→→(一致)もしくは→→←→→(不一致)の表示に対して反応するFTを用い,前方のモニターに表示された視覚課題を開始合図とし,中央の矢印の示す側の足を踏み出すもしくはスイッチを押す練習をした。なお,両課題で,できるだけ速くかつ正確に課題を遂行するよう教示した。練習を3日間実施し,練習前後で全被験者に両課題を行いpre/post testとした。
評価指標は,ステップ動作課題では重心動揺計(アニマ社製ツイングラビコーダG6100)による床反力垂直成分を指標として,通常のステップとは逆方向に荷重が偏倚した場合の潜在エラー率と偏倚の程度を算出し,指押し反応課題では反応時間とした。
統計処理は,群間比較にKruskal-Wallis検定,pre/postの郡内比較にWilcoxonの符号付順位検定を用い,有意水準は全て5%とした。
【結果】
ステップ群のみで,不一致条件における潜在エラー率が有意に減少し{pre:43.13±24.87(%)post:25±25.98(%)},指押し群では,指押し反応時間が両条件とも有意に短縮した{(一致)pre:0.56±0.06(s)post:0.50±0.03(s)(不一致)pre:0.62±0.08(s)post:0.56±0.04(s)}。また,潜在エラーが発生した際の修正過程は,ステップ群と両練習群で改善を認めた。
【結論】
選択的注意課題を用いたステップ練習によりAPAは変化し得るものであることが示された。指押し反応練習により,指押し反応時間は短縮してもステップ時の潜在エラー率は減少しないことから,選択的ステップ動作は単純な注意機能のみを反映したものではない可能性があり,実際に荷重位で行う動作練習に課題特異性が高いことが示唆された。
転倒回避において,注意を要する環境下で素早くステップすることは重要な能力の一つである。ステップ動作開始時に誤った方向に体重移動してしまうことを予測的姿勢調整(以下APA)の潜在エラーといい,Uemuraら(2012)は,注意負荷を生じるFlanker task(以下FT)に対するステップ動作開始の際,高齢者は潜在エラーが生じやすく,エラーによるステップ動作の遅延が大きいと報告している。一方,ステップ練習の効果について,Pichierriら(2012)は認知課題を用いたステップ練習によって,ステップ動作開始時の所要時間が短くなったと報告したが,APAの変化については不明な点が多い。そこで選択的注意課題を用いてステップ練習を行った際に,予測的姿勢調整に与える影響を明らかにするとともに,課題特異性を検証することを本研究の目的とした。
【方法】
選択的注意課題について,周囲の状況に応じて判断・選択し足を踏み出すまでの一連の過程にアプローチするステップ練習と,判断・選択する過程のみにアプローチする指押し反応練習を設定した。健常若年者32名(年齢21.38±1.93歳)を,ステップ練習をするステップ群,指押し反応練習をする指押し群,両方を半数回ずつ練習する両練習群,練習なし群の4群に分けた。それぞれの練習に→→→→(一致)もしくは→→←→→(不一致)の表示に対して反応するFTを用い,前方のモニターに表示された視覚課題を開始合図とし,中央の矢印の示す側の足を踏み出すもしくはスイッチを押す練習をした。なお,両課題で,できるだけ速くかつ正確に課題を遂行するよう教示した。練習を3日間実施し,練習前後で全被験者に両課題を行いpre/post testとした。
評価指標は,ステップ動作課題では重心動揺計(アニマ社製ツイングラビコーダG6100)による床反力垂直成分を指標として,通常のステップとは逆方向に荷重が偏倚した場合の潜在エラー率と偏倚の程度を算出し,指押し反応課題では反応時間とした。
統計処理は,群間比較にKruskal-Wallis検定,pre/postの郡内比較にWilcoxonの符号付順位検定を用い,有意水準は全て5%とした。
【結果】
ステップ群のみで,不一致条件における潜在エラー率が有意に減少し{pre:43.13±24.87(%)post:25±25.98(%)},指押し群では,指押し反応時間が両条件とも有意に短縮した{(一致)pre:0.56±0.06(s)post:0.50±0.03(s)(不一致)pre:0.62±0.08(s)post:0.56±0.04(s)}。また,潜在エラーが発生した際の修正過程は,ステップ群と両練習群で改善を認めた。
【結論】
選択的注意課題を用いたステップ練習によりAPAは変化し得るものであることが示された。指押し反応練習により,指押し反応時間は短縮してもステップ時の潜在エラー率は減少しないことから,選択的ステップ動作は単純な注意機能のみを反映したものではない可能性があり,実際に荷重位で行う動作練習に課題特異性が高いことが示唆された。