第51回日本理学療法学術大会

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一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P29

Sat. May 28, 2016 4:00 PM - 5:00 PM 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-29-3] 口頭指示の違いが姿勢安定性と姿勢戦略に与える影響

佐久間萌1, 長谷川直哉1, 武田賢太1, 伊吹愛梨1, 石川啓太1, 田中晨太郎1, 佐藤祐樹1, 呉瑕1, 萬井太規2, 前島洋2, 浅賀忠義2 (1.北海道大学大学院保健科学院, 2.北海道大学大学院保健科学研究院)

Keywords:口頭指示, 姿勢安定性, 周波数解析

【はじめに,目的】転倒は深刻な社会問題の1つであり,高齢者では安定性限界の著明な減少がみられる(Riach, et al., 1993)。従って,転倒を防ぐために狭い安定性限界での姿勢バランスの学習は重要である。姿勢バランスの学習を効率的にする手法の1つとして口頭指示がある。先行研究では,自分の体の動きに集中する「内的指示」と環境に対して運動が与える効果に集中する「外的指示」が定義されており(Wulf, et al., 2010),口頭指示の違いが姿勢バランスに影響を与えることが報告されている(Wulf, et al., 2007)。しかし,狭い安定性限界での課題において,圧中心(以下,COP),質量中心(以下,COM),圧中心と質量中心の関係性を表すCOP-COM間距離の姿勢安定性の指標やCOPの平均周波数などの姿勢戦略の指標を用いて口頭指示の影響を示した研究は我々の知る限りない。本研究は,狭い安定性限界での課題において異なる口頭指示が姿勢バランスに及ぼす影響を姿勢安定性と姿勢戦略両方の観点から検討した。

【方法】健常若年者20名を内的・外的指示群の2群に無作為に分けた。左右のCOM・COPを算出するために,三次元動作解析装置と床反力計を用いた。被験者は左右に動揺する不安定板上でなるべく長く立位を保つという課題を行った。被験者は固視点を注視し,内的指示群は「自身の足のゆれ」に,外的指示群は「不安定板のゆれ」に焦点を向けるよう指示した。実験課題は,練習前後に口頭指示を与えず各3施行実施した。練習では各群に口頭指示を与え75秒間立位保持を3施行できた時点で練習終了とした。姿勢安定性の指標として,COP・COM最大偏移量,COP-COM間距離,姿勢戦略の指標としてCOPの平均周波数,姿勢安定性と姿勢戦略の関係性の指標として,COP-COM間距離とCOPの平均周波数の相関を分析した。統計解析は,練習前後の各時点での群間比較としてMann-Whitney U検定,練習前後での比較としてWilcoxon Signed-rank検定を実施した。相関検定としてSpearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は5%とした。

【結果】COP・COM最大偏移量ともに練習前後で外的指示群は有意に小さかった(p<0.05)。しかし,COP-COM間距離は群間に有意差がなかった。COP-COM間距離とCOPの平均周波数の間に中等度の有意な正の相関が示された(r=0.5)。

【結論】本研究では狭い安定性限界での課題を用いたが,先行研究と同様に外的指示で練習を行ったときに姿勢安定性がより高くなることが示された。従って,狭い安定性限界での姿勢バランス課題において,外的指示が内的指示よりも優れていることが示唆される。しかし,COP-COM間距離では口頭指示の違いが示されなかった。この結果は,口頭指示の違いよりも個人の姿勢戦略がCOP-COM間距離に影響されたことが考えられる。本研究の結果は安定性限界の狭小化が懸念されている高齢者やパーキンソン病患者へのバランス練習を提案する際の基礎的資料になると考える。