第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P30

2016年5月28日(土) 16:00 〜 17:00 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-30-2] 筋運動感覚は言葉を介して共有できるのか

宮下広大, 金井秀作, 長谷川正哉, 積山和加子, 高宮尚美 (県立広島大学保健福祉学部理学療法学科)

キーワード:言語教示, 言語表現, 筋活動量

【はじめに,目的】

患者の動作・運動指導において言語教示の重要性が唱えられている一方で,運動を促す際の指導者と学習者の言語認識の一貫性については,今日のリハビリテーション分野での研究は十分であるとは言えない状況にある。そこで,本研究では異なる言語表現が筋収縮に与える影響と言語を用いた筋収縮感覚を他者と共有可能であるか調査する。

【方法】

健常男性12名を対象とした。2人1組とし両者をフィットネスチューブの両端を把持した状態で向き合わせ,言語教示を提示し,肘関節屈曲運動を5秒間行う牽引側,閉眼にて開始肢位を保つ受け手側とした。教示内容は形容詞表現「速く・強く」,「遅く・強く」,擬態語表現「びゅんっと」,「ぎゅーっと」,比喩的表現「綱引きでピストルの合図と同時に綱を引くように(以下,綱引き)」,「何とか持ち上がるくらいの重いダンベルを手前に引くように(以下,ダンベル)」の6種類とした。各施行終了後,速度・強度を(Visual analogue scale:VAS)を用いて主観的感覚を調査した。また受け手側には9種類の教示を提示し,筋運動感覚から牽引側の教示内容を予測させた。なお,表面筋電図の測定は右上腕二頭筋,右上腕三頭筋長頭,右上腕三頭筋外側頭とした。

統計解析は,各教示間における筋出力の比較にKruskal-Wallis testを用いた。有意差を認めた場合にSteel-Dwass testによる多重比較を行った。比較する際の教示は受け手側の予測に合わせて牽引側,受け手側それぞれ行った。

【結果】

受け手が回答した予測教示について,一致した正答率は「綱引き」の67%が最も高く,対照的に「びゅんっと」の25%が最も低かった。各教示間のVAS速度,VAS強度,上腕二頭筋平均振幅の牽引側においては,VAS速度で各教示間に多くの有意差が認められたが,VAS強度において,有意差は認められなかった。また,客観的指標である上腕二頭筋平均振幅においては,「遅く強く」「綱引き」間,「ぎゅーっと」「綱引き」間でのみ有意差が認められた(p<0.01,p<0.05)。受け手側においては,VAS速度に,「びゅんっと」「綱引き」間,「びゅんっと」「ダンベル」間を除き,牽引側と同様の有意差が認められた。VAS強度においては,形容詞・擬態語間,擬態語・比喩間に有意差が認められたが,形容詞・比喩間で有意差は認められなかった。上腕二頭筋平均振幅においては,「綱引き」「ダンベル」間で有意差が認められた(p<0.05)。

【結論】

治療意図による言語の使い分けの必要性が示唆された。また適切な比喩的表現は牽引側,受け手側,両者にとって最も統一した筋収縮活動を起こした。このことから,運動指導を担う理学療法士には他者と共有しうる多彩な比喩表現の必要性が示唆された。