第51回日本理学療法学術大会

講演情報

一般演題ポスター

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) 一般演題ポスター
基礎P33

2016年5月29日(日) 10:00 〜 11:00 第12会場 (産業振興センター 2階 体育実習室)

[P-KS-33-1] 筋損傷からの再生能において骨格筋部位特異性は存在するか?

吉岡潔志, 小川静香, 瀬古大暉, 藤田諒, 久松翼, 李桃生, 小野悠介 (長崎大学大学院医歯薬学総合研究科幹細胞生物学研究分野)

キーワード:骨格筋, 筋再生, サテライト細胞

【はじめに,目的】

骨格筋は打撲による外力,外科的手術,運動などにより損傷しても,数週間で修復・再生される。筋の再生能は,筋の周囲に存在するサテライト細胞とよばれる骨格筋幹細胞が担っている。これまで,骨格筋に対するリハビリテーション介入において,骨格筋間における筋再生能の差は考慮されていなかった。しかし近年,サテライト細胞は身体内の骨格筋間で質的に著しく異なる集団であることが報告され(Ono, 2014),筋再生能も身体部位ごとに異なるのではないかと考えた。そこで本研究では,身体内の骨格筋間での筋再生能の違いを検証することを目的とした。

【方法】

8週齢の雄性マウス(C57BL/6J)を用い,左側の咬筋(MAS)及び前脛骨筋(TA)にカルディオトキシン(CTX)を注射し,対象筋全体にわたって筋損傷を誘発した。2週間後,8週間後にそれぞれの筋を摘出し,組織横断切片を作成し,Lamininの染色により筋線維横断面積(CSA)を,Pax7の染色によりサテライト細胞数を測定した。また,繰り返し損傷後の筋再生能を調べるため,最初のCTX注射から2週間後にもう一度,CTX注射により筋損傷させる群を作成し,2回目の筋損傷から2週間後にCSAを測定した。Con群は同一個体の非損傷側の筋とした。CSAはヒストグラム分布により評価し,他の結果の統計処理にはt検定を用い,有意水準はP<0.05とした。

【結果】

最初のCTX注射による筋損傷から2週間後,CSAはどちらの筋でもCon群と比べ減少した。この時,サテライト細胞数を比較すると,TAはCon群と比べて有意に多く,MASではCon群と比べて差がみられなかった(TA損傷群:31.2±1.7個/mm2,TA Con群:14.7±4.0個/mm2。MAS損傷群:13.6±2.1個/mm2,MAS Con群:14.5±2.0個/mm2)。このサテライト細胞数の差を反映するように,筋損傷から8週間後のTAではCon群に比べてCSAが大きくなった一方で,MASのCSAは小さいままであり,TAはMASに比べ,筋再生能が高いことを示唆する結果が得られた。この傾向は,繰り返し損傷においてより顕著となり,筋再生の許容量にもTAとMASで差があることを示す結果が得られた。

【結論】

本研究により,筋再生能には骨格筋間で差があることが明らかとなった。一方,損傷から再生した筋とその機能・出力の回復に関しては,今回は検証しておらず今後さらなる検証が必要である。本研究は,骨格筋に対するリハビリテーション介入に『身体部位による骨格筋の再生能の違い』という新しい視点を加え,身体部位によって影響が異なるサルコペニアなどの筋疾患のメカニズム解明に貢献すると考えられる。