[P-KS-34-2] 前鋸筋の筋疲労が上肢挙上筋力及び上肢挙上保持持久力に与える影響
キーワード:上肢挙上, 前鋸筋, 筋疲労
【はじめに,目的】
上肢挙上運動は肩甲骨,鎖骨,上腕骨の運動からなる複雑な運動である。これらの協調的な運動が破綻すると肩関節障害発生のリスクが高まると考えられ,筋疲労がその一要因であるとされている。筋疲労により生じる筋力低下が協調的な運動を阻害すると考えると,疲労課題により一時的に筋力低下モデルを作製し肩関節運動を検証する事は,機能障害を理解する上で臨床的に有意義であると考える。インピンジメント症候群患者では前鋸筋の筋力低下を認めるという報告があるが,前鋸筋の筋力低下が上肢挙上動作において筋力や持久力にどう寄与するかは不明である。臨床現場において,筋力が改善された後も上肢挙上位での持久力が向上しないために日常生活動作に支障をきたす肩関節疾患患者は多く,持久力に寄与する筋の働きを究明する事は重要であると考える。そこで本研究の目的は,経皮的電気刺激装置により前鋸筋単独の筋疲労を生じさせ,その前後における挙上筋力と挙上保持持久力の変化を明らかにする事とした。
【方法】
対象は右側上肢に障害や既往のない健常男性16名(25.6±3.4歳)とした。筋電図学的データの収集にはNoraxon社製の表面筋電計を用い,右側前鋸筋の筋電図をサンプリング周波数1500Hzで測定した。挙上筋力の測定には徒手筋力計を用い,椅座位にて肩関節90°屈曲位,肘伸展位,前腕は中間位を保持し,3秒間の最大等尺性挙上筋力を測定した。挙上保持持久力は挙上筋力の40%負荷に相当する重錘を把持し,肩関節90°屈曲位,肘伸展位を保持できる時間とした。電気刺激には伊藤超短波製の骨格筋電気刺激装置を用い,右側の前鋸筋に対してのみ筋疲労を誘発するために使用した。刺激時間は合計で25分とし,初めの5分は痛みを感じない強度,残りの20分は耐えられうる最大強度まで電圧を調整した。挙上保持持久力の測定中における初め3秒間の筋電図データから,低値ほど筋の疲労を意味する中心パワー周波数を算出し筋疲労を筋電図学的に評価した。統計学的検定は,疲労課題前(Pre)と後(Post)における右側の前鋸筋中心パワー周波数,挙上筋力,挙上保持持久力について対応のあるt検定を行った。なお統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
挙上保持課題中の前鋸筋の中心パワー周波数(平均±標準偏差,単位:Hz)はPreが57.8±7.1,Postが55.5±6.1であり,Preに対しPostで有意に低値を示した事から前鋸筋に筋疲労が生じている事がわかる。しかし挙上筋力(単位:Nm)はPreが57.5±13.5,Postが58.2±12.2であり,有意差はなかった。挙上保持持久力(単位:s)はPreが80.7±13.0,Postが66.5±15.3であり,Preに対しPostで有意に低値を示した。
【結論】
前鋸筋単独の筋疲労を生じさせると,上肢挙上筋力は変化せず上肢挙上保持持久力が減少する事が明らかとなり,前鋸筋の筋力低下を認めた肩関節疾患評価における挙上保持持久力評価の重要性が示唆された。
上肢挙上運動は肩甲骨,鎖骨,上腕骨の運動からなる複雑な運動である。これらの協調的な運動が破綻すると肩関節障害発生のリスクが高まると考えられ,筋疲労がその一要因であるとされている。筋疲労により生じる筋力低下が協調的な運動を阻害すると考えると,疲労課題により一時的に筋力低下モデルを作製し肩関節運動を検証する事は,機能障害を理解する上で臨床的に有意義であると考える。インピンジメント症候群患者では前鋸筋の筋力低下を認めるという報告があるが,前鋸筋の筋力低下が上肢挙上動作において筋力や持久力にどう寄与するかは不明である。臨床現場において,筋力が改善された後も上肢挙上位での持久力が向上しないために日常生活動作に支障をきたす肩関節疾患患者は多く,持久力に寄与する筋の働きを究明する事は重要であると考える。そこで本研究の目的は,経皮的電気刺激装置により前鋸筋単独の筋疲労を生じさせ,その前後における挙上筋力と挙上保持持久力の変化を明らかにする事とした。
【方法】
対象は右側上肢に障害や既往のない健常男性16名(25.6±3.4歳)とした。筋電図学的データの収集にはNoraxon社製の表面筋電計を用い,右側前鋸筋の筋電図をサンプリング周波数1500Hzで測定した。挙上筋力の測定には徒手筋力計を用い,椅座位にて肩関節90°屈曲位,肘伸展位,前腕は中間位を保持し,3秒間の最大等尺性挙上筋力を測定した。挙上保持持久力は挙上筋力の40%負荷に相当する重錘を把持し,肩関節90°屈曲位,肘伸展位を保持できる時間とした。電気刺激には伊藤超短波製の骨格筋電気刺激装置を用い,右側の前鋸筋に対してのみ筋疲労を誘発するために使用した。刺激時間は合計で25分とし,初めの5分は痛みを感じない強度,残りの20分は耐えられうる最大強度まで電圧を調整した。挙上保持持久力の測定中における初め3秒間の筋電図データから,低値ほど筋の疲労を意味する中心パワー周波数を算出し筋疲労を筋電図学的に評価した。統計学的検定は,疲労課題前(Pre)と後(Post)における右側の前鋸筋中心パワー周波数,挙上筋力,挙上保持持久力について対応のあるt検定を行った。なお統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
挙上保持課題中の前鋸筋の中心パワー周波数(平均±標準偏差,単位:Hz)はPreが57.8±7.1,Postが55.5±6.1であり,Preに対しPostで有意に低値を示した事から前鋸筋に筋疲労が生じている事がわかる。しかし挙上筋力(単位:Nm)はPreが57.5±13.5,Postが58.2±12.2であり,有意差はなかった。挙上保持持久力(単位:s)はPreが80.7±13.0,Postが66.5±15.3であり,Preに対しPostで有意に低値を示した。
【結論】
前鋸筋単独の筋疲労を生じさせると,上肢挙上筋力は変化せず上肢挙上保持持久力が減少する事が明らかとなり,前鋸筋の筋力低下を認めた肩関節疾患評価における挙上保持持久力評価の重要性が示唆された。